362 / 596
君は本当に男子児童ですか?/しょたおに
放課後、中学二年生の小長井律 は真っ直ぐ家に帰宅する気にもなれずに近所の公園へ寄り道した。
まだ夕方前で明るい時間帯、広い園内にはブランコや滑り台などの遊具で無邪気に遊ぶ子供がたくさんいる。
ベンチに座った律は冴えない顔色でため息をついた。
ああ、いやだな……。
学校、もう行きたくない……。
「おにいさん?」
俯いていた律はびっくりした。
「どうしたの? 具合、わるいの?」
……なんて親切な小学生なんだ。
顔を上げた律がぶるぶる首を左右に振ると、その男の子はにっこりと笑った。
「よかったぁ。病気なのかとおもった」
大きな目をした可愛らしい男の子だった。
ねこっけの髪はとても柔らかそうだ。
パーカーに半ズボンで、ふくらはぎが何だか目に眩しい。
「でも、なんか、顔色わるいよ? どうかしたの?」
人懐っこい男の子は律が座るベンチにちょこんと座ると、首を傾げ、冴えない表情を覗き込んできた。
「ぼく、綿貫千夏 っていうの。おにいさんは?」
「えっと……小長井、律だけど」
「律おにいさん、学校でなにかいやなことでもあったの?」
……なんて鋭い小学生なんだ。
悪びれるでもなく堂々と尋ねてきた男の子、千夏君に、律はつい笑った。
「ぼくでよかったら相談相手になるよ?」
「……本当? ありがとう」
律は他愛ない時間潰しのつもりで、千夏君に、適当に話を始めたつもりだった……。
「こっちはどうしても付き合う気になれなくてその場で断ったんだ、だって、変に、その、やらしい気持ちだけでOKするっていうのも失礼だと思わない?」
「うんうん」
「だから、真面目なつもりで断ったのに、次の日、その子の友達から、まぁクラスメートになるわけだけど、教室でぎゃーぎゃー文句言われて」
「そういう女子、いるよね」
「何でかクラスの女子全員がおれのことシカトするっていう意味不明な事態になって」
「ほんと意味不明だね」
「女子に嫌われたくない友達まで、おれに冷たくなって、ひどいよ」
「ひどいね」
「もうあんな教室行きたくないよ……」
話すのに夢中になっていた律は、はたと、我に返った。
公園は夕陽に浸されて何もかもがすっかり茜色に染まっていた。
あれだけ遊び回っていた子供たちはすでに家へと帰り、律と千夏君以外、園内に残っている人間は見当たらなかった。
「ご……ごめん、千夏君、こんなに遅くなっちゃって……君も家に帰らなくちゃ」
急に話を切り上げて帰宅を促してきた律に、千夏君は、にっこりと笑う。
「ううん、大丈夫。お母さんは夜勤だし、お父さんは出張だし、おねえちゃんはデートだから」
「そ、そうなんだ」
「でもちょっと寒くなってきたから、あそこ、行こう?」
そう言って千夏君が指差したのはコンクリートの土管遊具だった。
律は、一瞬、迷った。
お腹も減ったし自分だってそろそろ帰宅しなくちゃならない。
が、今まで真摯に話を聞いてくれた千夏君を置いて帰るのも当然気が引ける。
家に帰っても一人で寂しいみたいだし、もう少しだけ、一緒にいようかな。
「うん、行こうか」
律は鞄を小脇に抱えてベンチを立った。
頭を屈めるとひんやりしたそこに体育座りで腰を下ろす。
うわ、小学生以来だ、ここに座るの。
前は広く感じたけれど、今ではもう、ちょっと狭いかな……でもまぁ、余裕はあるか。
感慨深げにしている律の隣に千夏君もやってきた。
やたら密着して座った千夏君に、律はちょっと目を見張らせ、彼を見下ろす。
「えへへ」
少女めいた大きな双眸がすぐ真下にある。
この子、本当に可愛いな。
女の子だったらタイプかも……。
「今からカップルごっこしよ?」
頭の中を読まれたような気分で、動揺した律は、聞き返す。
「え、な、何?」
「カップルごっこ、じゃあ、始めっ」
勝手に開始するなり、千夏君は、頭までぴとりと律の肩にくっつけてきた。
え? え? え?
「ち、千夏君、あの……?」
いきなり千夏君が顔を上げたので律は咄嗟に口をつぐんだ。
千夏君はにっこり笑う。
「えへへ」
千夏君は思わず硬直していた律にキスをした。
驚いた律は慌てて自分より小柄な彼を押し返そうとしたのだが。
ぬるっ
無防備でいた唇を割ると、予想し得ない動きで、千夏君の舌が律の口腔に侵入してきた。
ぬるぬるぬるぬるっ
「ふぁぁ……っっん」
子供とは到底思えない卑猥な舌遣いに律は一瞬で真っ赤になる。
びくつく舌を絡めとられ、ざらつく感触を堪能されて、唾液をくちゅくちゅと掻き回される。
「んっちょっ待っ……んぅっんっ」
濃厚なキスに拒む台詞は喉奥へ押し戻され、代わりに、唾液が下顎へと伝った。
「んは……っぁふ……んくっ」
たっぷり濡らされるようなキスに朦朧となる律。
が、小さな手が股間に差し込まれると、再びぎょっとして、目を見開いた。
「律おにいさん、ぼっきしてるよ?」
「あ……うそ」
「うそじゃないもん、ほら」
むにむにむにむに
掌で服越しに揉み込まれて律はさすがに抵抗した。
「ちょ、だめだよ、ちなつくん」
「だめじゃないよ、だって、カップルごっこだもん」
「え……」
「カップルで気持ちよくなるの、ふつうでしょ?」
屈託のない笑顔でそんなことを言われて、律の自制心は、確実に緩んだ。
……気持ちいいのは確かだ。
……相手は小学生の男の子だけど、これって、ごっこ遊びだから。
……罪にはならない……よね?
頭の中で自問自答している律を余所に、千夏君は、またも思い切った行動に出た。
ベルトを緩めて下肢の衣服を一息にずり下ろすと、飛び出た起立ぺにすを、ぱくりと……。
「ひぅぅうっ」
律は土管遊具の中でつい声を洩らした。
夕日はいつの間にか宵闇に蝕まれ、広い園内には人影一つなく、それを聞く者は誰もいなかった。
ともだちにシェアしよう!