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お手を拝借、腐男子姫?/王子系男子×隠れ美少年腐男子

立花崇太朗(たちばなそうたろう)は学園切ってのプリンス系男子だ。 「いたーい……転んじゃったぁ」 「大丈夫? 保健室まで運んであげるね」 「きゃっ!」 誰かが廊下や校庭で転んで足を挫こうものなら迷わずお姫様抱っこ。 雨の日に仔猫や子犬が段ボールに捨てられていようものなら即座に救助、一週間内には理想の飼い主をすぐにゲット。 一般男子ならば「そんなんできねーよ」的振舞を堂々とやってのけるプリンス気質だ。 しかも祖父がロシア人でクォーター、長身、和洋折衷が見事に成立した見目麗しい顔立ちときていた。 「あ、王子だ」 「今日もキラキラ度が半端ねぇ」 おかげであだ名が「王子」、うん、様になっている。 当然のことながら学園内での王子信者はまっこと多い。 「はぁ……今日の王子も麗しいなぁ」 学園名物の噴水がある中庭を颯爽と横切る王子を渡り廊下からこっそり盗み見するは信者の一人、後藤樹音(ごとうじゅね)だ。 ぼさぼさのダサ黒髪に、ダサ眼鏡、見るからにダサ雰囲気。 クラスでクラス委員長を務めている、あだ名は「雑用」。 愛読書は新刊のBLマンガ。 「崇太朗、急げよ、豚キムチ丼が売り切れるだろーが」 うわぁ、今日も俺様ムードがむんっむんだ、崇太朗王子サマに仕える剣士サマな邑吉祥(むらきっしょう)クン。 「お前は足が早い。先に行って俺と崇太朗の食券を購入し、余裕があれば席を確保して、さらに余裕があったら交換しておいてくれ」 荒くれ剣士をクールに操作する王子サマの第二の従者、魔術師サマな更級犀(さらしなせい)クン。 このトリオたまんないなぁ、一日中、いや、一ヶ月くらい密着させてほしいなぁ。 みーんな上級イケメン。 みーんなカップリングのし甲斐がある、はぁはぁ。 「待って、あそこで誰か転んだ……!」 でもやっぱり王子サマが一番だけど。 水飛沫がキラキラ舞う噴水の傍らでお付きの二人(?)に寄り添われ、真昼の日差しを一心に浴びて全身煌めいているような崇太朗。 窓枠にぺちゃっと両腕を乗っけてうっとり見下ろしていた樹音だが。 「んっ?」 「!!」 急に崇太朗が顔を上げ、目がバッチリ合って。 二階渡り廊下にいた樹音はビックリし、大慌てでその場から逃げ出した。 「急げよ、崇太朗」 「どうかしたのか?」 「今、誰か見てた」 わざわざ足を止めて頭上を仰いでいる王子に剣士と魔術師は顔を見合わせた。 「どーせお前の信者だろ」 「盗み見、盗み聞き、盗み撮り、日常茶飯事だ」 小学部から学校生活を共にしている二人がドライでいるのに対し、現在高等部一年生の崇太朗はどこか気になるご様子で。 片手を翳し、うっすらグリーンの双眸を細め、天然アッシュゴールドの髪を爽やかな風に靡かせて。 正にプリンス的佇まいで樹音の気配が微かに残る渡り廊下の窓辺を見つめるのだった。 休み時間。 学校行事に関するアンケート用紙を担任に渡すため職員室に向かう樹音。 もう一人のクラス委員(♀)が女子の分を回収するのをさぼっていて、急ぐよう言われていたため、結局自分で全員分集めたプリントの束を持って廊下を足早に進んでいた。 それにしても昼休みはびっくりしたなー。 あんな風に視線が合ったの、初めて。 ボクは高等部から入ってきた外部組だから、王子に出会ってまだ一年も経ってないんだけど。 王子かっこよかったなぁ、この間買った学園BL特集号、複数のタチキャラにそっくりだったぁ、 どん!! 「わぁ」 二人並んで歩いていた男子生徒の一人に思いっきりぶつかられた小柄な樹音。 二人組はそのまま目もくれずに歩いていく、慣れっこの樹音はただでさえ猫背の背中をさらに曲げ、廊下に散らばったプリントを一枚一枚拾っていく。 そこへ。 まるでお姫様に花束の贈り物でもするかのようにすっと跪き、恭しい手つきでプリントを一枚拾い上げた、彼。 「ハイ」 すごい手柄でもとったかのように眩い笑顔を添えて差し出してきた崇太朗。 予想外の接触に樹音はろくに反応できない。 「あれ」 反対に崇太朗は硬直している樹音をまじまじ覗き込んでくる。 「もしかして、君、昼休みに渡り廊下にいたコ?」 ずれ落ちたダサ伊達眼鏡、長めの前髪下に覗いた大きな双眸。 てんぱってぱにくっている樹音にさらに容赦なく接近した崇太朗は。 「あ」 無断でダサ眼鏡をより下にずらして前髪を押し上げ、まーじまーじ、見つめてきて。 「すごく綺麗な目だね」 き…………きれい…………? 「ッ……いえいえいえいえ! ボクっすっごいブスですから!!」 やっと我に返った樹音は眼鏡をきっちりかけ、前髪をばさばさ下ろし、凄まじい勢いでプリントを拾い集めるとその場から一目散に逃げ去って行った。 「……ブス……?」

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