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お手を拝借、腐男子姫?-2
樹音には二人の姉がいた。
『ブス、樹音のブス』
『ブース』
むかーしむかし、親戚一同ご近所の皆さんに「可愛いわねぇ」と言われていたのは末っ子長男の樹音だった。
そんな弟が物心つくようになると幼いながらもプライドをズタズタにされていた姉二人は協力して呪いをかけることにした。
『『ブスブスブスブス』』
『うぇーん……ブスでごめんなちゃい』
呪いのせいで自分はブスだと思い込み、顔を見られないよう姿勢は悪くなって猫背と化し、前髪を伸ばし、かける必要のない眼鏡をかけるようになって。
「王子、ひどいこと言うなぁ……ブスなボクがきれいなわけないもん……はぁ、なんかショックだな……気分転換に迷ってた新刊買って帰ろうっと」
今に至る。
カランコローン
「いらっしゃいませ」
古めかしいアンティークが引き立つ街角の喫茶店。
奥の席が王子と魔術師と剣士の溜まり場になっていた。
「んで、ご注文はいつも通り、メロンフロートとウィンナーコーヒーでいいか?」
バイトしている剣士……ではなく、制服にエプロンをつけた吉祥は注文をとるとカウンター奥にいるマスターに告げ、猫脚の長椅子にどっかと座った。
「本当に綺麗な目で吸い込まれそうだったんだよ」
「またその話かよ」
「彼は1Dの後藤樹音だ、恐らく」
「じゅねぇ?」
「樹音くん!」
「聞いたことねぇな。外部組の奴か? つぅかなんで知ってんだよ、犀」
「同学年の生徒の名前くらい全員知っている」
魔道書を読んでいた魔術師……ではなく、とてもじゃないがジュブナイル向けではない官能小説を読んでいた犀、さらりとそう答えた。
「後藤樹音くん!」
「うるせぇ、他の客の迷惑だ、崇太朗」
「とっても綺麗な目だった!」
「わかったって」
「とっても可愛かった!」
「うるせぇ」
次の日。
嫌味としか思えない台詞を浴びせられてショックを受けながらも新刊BLを読んで「このキャラまんま王子~」と昨夜はウキウキはしゃいで眠りについた樹音。
昼休み、また懲りずに中庭を横切る崇太朗を渡り廊下からこっそり眺めていたら。
「!!」
崇太朗がいきなりこちらを見上げたので慌ててまたその場から逃げ出そうとした。
「樹音くん! 1Dの後藤樹音くーん!」
ええええ!?
な、なんでボクの名前……ッていうかすっごい大声で叫んでッ、なになにッ、怒られる!?
公衆の面前で裁かれるッ!?
「おーい、樹音くーん!」
渡り廊下を歩いていた他の生徒にも注目され、まっかっかになった樹音、逃げ出すわけにもいかずに。
そろーーーーり、去りかけた窓辺から顔を出してみた。
お付きの二人を従えて大きく優雅に手を振る王子。
「いっしょにランチ食べよー!!」
なななな、ななななな?
「吉祥、マスタードをとってきてくれ」
「は? 俺、別にいらねーし」
「お前の方が僅かにカウンターに近い、だからお前がとってこい」
「後でお前のフライドチキン寄越せよ」
「ポテトならやる」
わ、わ、わ、わ、わ、わーーーー!わーーーー!
リアルBL! 生実況したい!
腐男子腐女子の皆さんにこの感動を伝えたい!
特に普通の会話でもカップリング対象の相手となればBL会話に聞こえる樹音、おかげで箸が進まない、萌えで胸がいっぱいだ。
剣士と魔術師、これもう夫婦だ、夫婦に違いない、一つ同じ屋根の下で何回も熱い夜を過ごしたに違いなーーーい!
「食べないの?」
「はっっ」
そ、そうだった、隣には王子がーーーーー!
ボクの隣に王子いるーーーーー!
「樹音くん、さっきはごめんね?」
「はっっ?」
「大声で呼んだりなんかして。びっくりしたよね?」
「はぅぅ」
「食わねぇんならくれ」
「手作り弁当か。美味しそうだ」
「あ! 俺も食べたいっ」
周囲に注目されているカフェテリアの片隅、王子と剣士と魔術師の間をランチボックスが忙しげに行き来し、みるみるおかずが減っていく。
ていうか。
どしてボク呼ばれたの?
「すごく美味しかった、ごちそうさま!」
「ぅっっ」
崇太朗のキラキラ笑顔に脳天を撃ち抜かれてその場であわや失神しそうになった樹音なのだった。
リアルBL(?)を間近に鑑賞できた気分で浮かれていた樹音であったが。
「樹音くん……っ」
「ぇっっ」
まさか自分自身にBL展開が舞い降りるとは思ってもみなかった。
放課後の誰もいない教室。
後ろからきつく抱きしめられて心臓が壊れてしまうんじゃないかというくらい高鳴った。
「どうしよう、俺……樹音くんのこと、離したくない」
「そ、それ……っどーいう……」
「好き、だから」
「ブスだからっっっ」
こちらも思ってもみなかった回答、崇太朗はグリーンな双眸をパチパチ瞬きさせて首を傾げた。
「ボク……っブスだから釣り合わないです……っ王子のそばにはいられないっ」
「釣り合うとか、釣り合わないとか、誰が決めるの?」
「っっっ」
「樹音くんは俺のこと嫌い? 好きになれない?」
すすすすすす、好き、とか、そんな恐れ多いッッ。
「いえいえいえいえ、ボクは、あの、やっぱり、そばにいられるだけでッ(BL妄想できればッ)、十分です……王子のこと見ていられるだけで(カップリング妄想するだけで)、幸せです……、ッ、ッッ!!??」
崇太朗にキスされて樹音は危うく昏倒しそうになった。
『えっちって気持ちいいの? どんな風にやるの?』
『はぁ? イイに決まってんだろ。本能に任せてガツガツ求めりゃあいーんだよ』
『いや。ガツガツは駄目だ。じっくり、焦らず、ゆっくり、深く、求めてやらないと』
『がむしゃらに突っ走れば何とかなんぞ』
『ただ突くだけじゃ満足してもらえない。性感帯は人体の随所に潜んでいる』
『うーーーーーん?』
「ひゃぁぁあぁぁん……っ王子ぃ……っ」
二つ繋げた机の上に仰向けになった樹音は、ずれた眼鏡越しに、大きな双眸で、かつてないくらい色気滴る王子を見上げた。
崇太朗の童貞だったアレが樹音の処女だったアソコに挿入っちゃっている。
みちみち押し拡げて、なかなか奥まで、みっちりと。
う、わぁぁぁぁ……まさかまさか自分がこんな……ッリアルBLガチ生体験するなんて……ッ。
どぉしよぉ。
すっごぃ……き、きもちぃぃよぉぉ……。
「あ……」
ぴくん、ぴくん、樹音の包茎ちゃんが二人の狭間で震えた。
じわーり先走りのカウパーに濡れて勃っているのは一目瞭然で。
「ど、ぉ、しよぉおおぉぉ……」
「樹音くん……」
「ボク……王子とひとつになって……とろとろ、なっちゃぅぅ……」
「樹音くん、俺のこと好き? 嫌い? 好き? どっち?」
「はぁぁああぁあぁ……す、好きぃ……王子、好きぃぃ……」
「俺も。好き。樹音、すごく可愛いね……」
「あっぁああぁんっ……しゅごぃっ……おしりのあなっ、ほんとしゅごぃぃっっ」
「ねぇ、樹音。大好きだよ?」
「やぁんっ、ちくびぃ、そんなしちゃぁ……っあん、耳ぺろぺろしなぃでぇっ……し、締まっちゃ……締まっちゃぅぅ……っっ」
王子と腐男子姫、生まれて初めてのふたりえっちに二人揃ってなにこれ蕩けちゃう、なのだった。
end
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