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催眠術deほほいのほい!/不良×潔癖症/留年成人×コミュ障
「あー、ゴホン、転校生の卑木田哲郎 君だ、みんな仲よくするように、決してカツアゲしないように、根性焼きを強制しないように、タトゥーやタバコを勧めないように、妙なオクスリを服用させないように」
「これまた地味な転校生くんでちゅねーところで今キミのお財布にはいくら入ってまちゅかー?」
「カツアゲするなと言っただろう、白蛾」
堂々と机に両足を乗っけて踏ん反り返り、棒付きキャンディを口に含んだ白蛾 、さらっさらピンク髪にカラコン、ノストリルの鼻ピアスというデーハー外見、目立つ、目立ち過ぎる。
「……黙れ、白蛾、とっとと誘蛾灯に接触して焼け焦げて死ね」
「乱川、クラスメートに死ねはないだろう、死ねは」
他人を雑菌扱いして始終黒マスクをつけている乱川 、白肌に黒髪、爪には黒マニキュア、机の上には教科書ではなく夢野久作のお小説に丸尾末広のお漫画、癖が強い、癖が強いんじゃあ。
「…………、…………」
「小声でクラスメートを呪うな、奇津音、あと妙な人形を教室に持ち込むんじゃない」
詰襟代わりに着たパーカーのフードを目深にかぶり、顔がまともに見えやしない奇津音 、その手の中には小さな人形が、あ、顔が描かれていない、のっぺらぼう人形だ、その人形にぼそぼそ話しかけている、世にも奇妙、世にも奇妙過ぎる。
「あのー、そろそろクラス替えしませーん? ここにいると発狂しそーなんですけど、せんせー?」
「席替えみたいなノリで言うな、クラス替えは一年に一度だけだ、吊」
一見して割とマトモそうな吊 、ところがどっこい、彼は二十歳だ、連続留年しているのだ、バカなのだ、バカ過ぎる、なのだ。
「乱川、てめぇのその気色悪ぃ持ちモンこそ燃やしてやるよ」
「……黙れ、俺の尊敬する奇才を馬鹿にする奴はコロス」
「…………、…………」
「あーーーー! ばかになるーーー! ここにいたらもっとばかになるーーー!」
喧嘩発生、他のクラスメートは大慌てで机下に避難し、担任は呆れ顔だ。
罵詈雑言やハサミや消しゴムや定規や上履きが飛び交う中、存在を忘れ去られた地味転校生の哲郎、そっと俯いて。
ニヨニヨニヨニヨニヨニヨ。
やばい、なにこれ、これなに。
今までいろんな学校を転々としてきた、そこで色んなジャンルの生徒を対象に妄想してきた、優等生、不良、平凡、イケメン、生徒会、親衛隊などなど。
これはかつてないジャンル。
こんな個性派クラスメート、初めてだ、ああ、興奮、萌え、いひひ。
よっし、催眠術かけちゃお。
卑木田家は知る人ぞ知る催眠術師一族の分家にあたる。
金儲けのためよからぬ裏稼業につく哲郎の父は本家から忌み嫌われていた。
実のところ、正統なる後継者よりも磨きのかかった催眠術を会得していたために、毛嫌いされていたのだ。
「とりあえず彼にかけようっと」
哲郎も父の才を受け継いでいる。
ついでに我欲に忠実なところも、だ。
「白蛾くんは乱川くんのことが好きにな~る★」
「なぁなぁ、乱川」
「……あまり俺のスペースに来ないでくれないか、鱗粉がとぶ」
「んな、俺に目ん玉ついた翅なんかねぇし、なぁ、キャンディ食う?」
「……なんで俺がお前の食べかけキャンディを、お前の唾液が付着したキャンディを食べなきゃいけないんだ、コロスぞ」
「乱川ぁ」
「……擦り寄るな、コロス」
黒マスクの乱川にらぶ全開で擦り寄ろうとするデーハー白蛾の姿にクラスメートはざわわ状態だ。
たった一人、哲郎だけが太宰治の文庫本下で止まらないニヨニヨに襲われている。
いいね、いいね、ド派手くんが黒髪くんに懐く姿、いいね、いいね。
ていうか黒マスクとか黒マニキュアとか、乱川くん、たまんないよね、そのマスクの下とか教室で暴いてみたいよね、当然。
「白蛾くんは乱川くんの唇にキスしたくな~る★」
「んーーーーーー、乱川ぁ、ちゅーしよ」
「お、れ、の、ま、す、く、を、は、ぐ、な、白蛾ッ……あ、クソッ!」
白肌に零れ落ちた艶紅唇、が、露に。
すかさず、白蛾、哲郎にかけられた催眠術に従って、キス、を。
「ん゛ーーーーーーーッ!!??」
「はぁはぁ、乱川ぁ、もっとちゅー、もっとさせて……ッさせろッ、ゴラァ!」
「コロスーーーー!!」
血まみれの唇で愛を吠える白蛾に、血まみれの艶唇で罵倒する乱川、クラスメートはドン引きしている、哲郎だけは片手で顔を覆って周囲にニヨニヨがばれないよう必死だ。
白蛾くん→→→乱川くんの図もいいけど、やっぱり、相思相愛も見てみたいかな。
「乱川くんは白蛾くんのことが好きにな~る★」
「……白蛾ぁ」
「なんだよ、お前ってこんな甘えたがりなわけー? しゃーねーなぁ、特別に甘えられてやっか」
「……白蛾ぁ」
授業中であるにも関わらず白蛾のお膝に乗ってごろごろ甘える乱川。
「おら、きれーな唇見せろよ、乱川?」
「……白蛾菌だけなら許す」
授業中であるにも関わらずぶちゅぶちゅやり始めた二人からクラスメートは必死で顔を逸らす、一人、哲郎だけは教科書越しにガン見している。
甘えキャラ乱川くん、きてる、きてます、どんどんぐんぐんきてます、いひひ、かわゆーーい。
「なんだよ、あれ……きっも……ああ、ばかになる……また留年しそー……」
吊さんもいいよね、相手はやっぱり……彼だよね?
「吊さんは奇津音くんのことが好きにな~る★」
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