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その店子、吸血鬼につき/混血息子×青年管理人×吸血鬼男の娘パパ
「見て、あのコかわいい」
確かに百合刃 は一見してゴスロリお姫様だ。
だけどね。
「アリスとか赤ずきんっぽくない? おとぎ話の女の子みたい」
いや、女子じゃないし、男子だし。
ていうか吸血鬼だし。
そして僕の父親だし。
「昴流 、今夜の晩ごはん、妾はトマト鍋がいい」
灰色ツインテールの先っぽはくるんくるんカール気味、ちっちゃな真っ黒日傘を差して、リボンとかフリルとか盛ったゴスロリ衣装に身を包んでカッツンカッツン闊歩する父親、齢数百歳。
どこからどう見ても美少女。
図に乗ってるね、これは完全に。
ちなみに人間だった僕のお母さんはとっくの昔にお星様になった。
今はこの吸血鬼父の百合刃と二人で暮らしている。
僕と並ぶとタメか年下にしか見えない外見なので、ロリ顔の姉ということにして、父方一族の手助けを借りつつ結構のらりくらり生活している。
さて、日課となっているお散歩が済んで我が家に帰宅した。
築ウン十年という木造アパート、その名も「たそがれ荘」だ、なんともステキなネーミングだろう。
時間帯も正に<誰そ彼>、逢魔ヶ刻に。
落ち葉ちらつくアパート前を木箒でれれれのれ並みに掃いている青年がいた。
「あっ百合刃ちゃん、昴流くん、おかえり!」
アパートの住み込み管理人、野々宮 青年はモンスターの血を継ぐ僕達へにこやかにご挨拶。
まぁ、吸血鬼だっていうことはたいていの人間には伏せている、野々宮青年だって例外ではない。
姉と弟、身を寄せ合って二人ぼっちでお涙頂戴並みに仲睦まじく暮らしていると思っている野々宮青年。
彼はそれはそれは親身になって僕達に接してくれていた。
「ほら、焼き芋、さっきたき火で出来上がったばかりだよ」
二十二歳、ダッフルコートにマフラーを無造作にぐるぐる巻き、スキニージーンズに白コンバース。
ねこっけでニットキャップが恐ろしく似合っている。
野々宮さんってやっぱり可愛い。
「妾、焼き芋大好き、ありがと、野々宮」
激アツ焼き芋を平然と手にしている百合刃ににこっと微笑みかけられて、野々宮青年、ほっぺたを赤くした。
そう。
野々宮青年は僕の父にホの字なのだ。
野々宮青年に密かに片思い中の僕にとってさらに都合の悪いことがある。
「はい、野々宮、あーん」
百合刃も野々宮青年のことを気に入っている、ということだ。
激アツ焼き芋の一欠片を百合刃からの手渡しで食べ、熱さの余り涙目ながらも必死で飲み込もうとしている野々宮青年の健気な姿に僕は居た堪れなくなる。
下品な言い方だけど、本当、これってクソつまらないよね。
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