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その店子、吸血鬼につき-2

トマト鍋晩餐に野々宮青年も交えて、真っ赤なスープに浸った鶏肉も豚肉も牛スジも、締めの雑炊も綺麗残らず平らげた、その日の夜。 野々宮青年は拙宅に泊まっていった。 よくあることだ。 そして僕にとって悲惨なことが起こった。 「野々宮ー」 「えっ……百合刃ちゃん!?」 川の字で寝ていたはずが、百合刃のバカが真ん中の僕を跨いで越え、野々宮青年に夜這いを仕掛けたのだ。 「わっなんて格好……!」 野々宮青年の驚きぶりから察するに、百合刃のクソバカ、いつの間に布団下で勝負下着に着替えていたらしい。 レースだらけの真っ黒ゴスロリランジェリーで真っ白な肌を着飾ったと思われる、野々宮青年の布団に入り込んだ百合刃は悪戯っぽく潜めた声で囁いた。 「野々宮に妾の大切なもの、あげる」 「えっだっ大事なもの?」 「んふ、妾の、処女」 このオオウソツキめ。 ほんのちょっと昔までは前も後ろも休むことなくいつだってフル稼働で「この万年発情吸血鬼、節操持ちやがれ」と、お母さんや一族にボコられていたくせに、よくもまぁいけしゃあしゃあと。 「ま、待って、嬉しいけど、隣に昴流くんがっ……っん!」 あ、百合刃、キスした。 僕が片思いしている野々宮青年に。 でも野々宮青年、どう見たって百合刃にホの字だったから。 結ばれてよかったね、野々宮さん? 「あっ!?」 「妾、実はオトコノコなの」 「う、うそ……」 「オトコノコな妾、だめ? 野々宮、妾のこと、嫌いになった?」 「……」 「野々宮ー」 「……いや、性別なんて関係ない……!」 さすが僕が見込んだ人間男子、やっぱり野々宮さんは、イイ。 「ね、ココに野々宮の、んふ……童貞クン、挿入()れちゃって?」 「……あ、あ……ゆ、百合刃ちゃんのナカに……俺の、が……!」 「あん……野々宮の童貞クン……挿入(はい)ってきた」 「うわ、ぁ……あったかくて、ぬるぬるしてて……っきっきもちいい……!」 「んふ……野々宮ー……動いて?」 何が悲しくて好きな人が自分の父親と生セックスしている際の卑猥な音色を聞かなければならないのか。 だけど多少興味もあって、今更退出するわけにもいかないし、僕は隣で狸寝入りを決め込んだ。 上擦った呼吸を繰り返す野々宮青年の発情がひしひしと伝わってくる。 上昇した室内の温度、常夜灯がうっすら差す室内に広がりゆく露骨な火照り。 ペニスがアナルに絡まって粘っこい濁音を立てる。 「ああ……っすごい……っはぁ……」 こどもにもお年寄りにも好かれる、あの親切で優しい野々宮青年が初めてのセックスに夢中になっている。 時々、動物じみた声で唸ったり、太い声で呻いたり。 「きもち、いい……っ」 幻滅するかって? いやいや、まさか。 むしろ惚れ直すね。 「ああっで……出ちゃう……!」 「野々宮、いいの、そのまま」 「いいいっいいのっ? あっあっもぉっほんとっでででっ出る!」 「ん、いいの、いって?」 「んぁ、出るぅ…………!」 激しい抽挿音の後に、か細い絶叫、で、静寂。 ああ、野々宮青年、射精したのか。 童貞卒業、おめでとう。 「はぁ……はぁ……はぁ」 「んふ……妾、うれしい」 「ゆ……百合刃ちゃん……はぁはぁ」 「昴流の隣で、こぉんな激しく盛っちゃう野々宮……んふ……妾、興奮しちゃう」 「……百合刃ちゃん、目が……?」 野々宮青年のその言葉が耳に入るや否や。 僕は自分の布団を蹴っ飛ばした。 枕元に落ちていたタオルを咄嗟に掴み、飛び起き、布団下で百合刃に覆いかぶさっていた野々宮青年に素早く目隠しを。 野々宮青年の真下で百合刃は双眸を赤く光らせていた。 乱杭歯が出かかっている。 吸血行為に及ぶ兆し、丸出しだ。 このバカオヤジは野々宮青年に咬みつこうとしているわけだ。

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