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女装男子はお嫌いですか?/先生×女装生徒
街中で擦れ違った少女にどこか見覚えがあると感じ、教師の安曇野 は振り返った。
その少女は、すいたショートヘア、小柄な体にブレザーの制服を纏い、白のハイソックスにローファーで、雑踏を進んでいたのだが。
少女もまた、ちらりと安曇野の方を振り返ったではないか。
生徒ではない。
何故、安曇野が真っ先にそう思ったかというと、彼の勤め先は男子校だから。
安曇野と目が合った少女はその場から駆け足で走り去ろうとした。
「あ」
安曇野の視線の先で少女は通行人と派手にぶつかってしまった。
相手は大学生と思しき二人連れの若い男で、なかなか可愛い少女に冗談気味にいちゃもんをつけ、細い腕を掴んで強引に連れて行こうとしている。
切羽詰った表情で閉口している少女の横顔に、安曇野は、目を見開かせた。
あれは……。
少女の正体に気づくなり、安曇野は絡まれている彼女の元へ足早に歩むと、間に割って入った。
「この子、俺の連れなんで」
そう言って、呆気にとられている少女の肩を抱き、文句を垂れ流す二人連れを尻目にもかけず、くるりと踵を返す。
「せ、先生……」
少女が、いや、彼が自分をそう呼ぶのを聞いて安曇野は確信した。
「やっぱり、お前、姫川か」
姫川清四郎 。
安曇野が勤務する学校の生徒、つまり、男子である。
普段は詰襟の制服を校則通り第一ボタンまできっちり締めた、控え目で大人しい、成績優秀の優等生だった。
それが今は、紐タイプの赤いリボンをつけ、細身のブレザーを着用して、丈の短いプリーツスカートときた。
一体、何があったんだ、姫川よ。
「……ボク、女装は前からしてました」
その辺の店で話をするのも憚られ、近場のカラオケボックスに姫川を連れてきた安曇野は、仰天した。
「前からって……いつからだ?」
「小学生の頃から、時々……趣味っていうか」
「しゅ、趣味」
「家族も公認です」
「こ、公認」
昭和生まれの俺には驚きの連続だぞ、姫川よ。
「びっくりさせてごめんなさい、安曇野先生」
ソファで安曇野と横並びに座った姫川は足を閉じ、肩を縮こまらせて、ぽつりと謝った。
隣室の下手なボーカルが音量を落とした静けさに響く中、安曇野は、ちょっと笑う。
「いや、俺は……てっきりお前がクラスメートに罰ゲームか何かで強要されたのかと思って、だな」
「そんなこと、みんな、しません」
「ああ。だよな。びっくりしたけど、今の話聞いて、ちょっとほっとしたよ」
そう言って、小さな頭を大きな掌がぽんぽんと軽く叩く。
姫川はさらに顔を伏せて縮こまった。
「それにしても可愛いな」
「……え?」
「よく似合ってる、姫川」
確かに女の子みたいな顔立ちだとは思っていたけど、女装しただけでこうも完璧に化けられるとは。
安曇野が妙なところで感心していると、姫川は、伏せていた顔をゆっくりと上げた。
「ボク、可愛いですか……?」
今まで、ずっと、うまく合わせられなかった視線を頭上の安曇野に注ぐ。
「ボクが女の子だったら付き合ってくれる……?」
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