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新種の淫夢魔を拾いました/リーマン×女装淫魔
中小企業の平社員でバツイチの三十路男、久間 は帰宅途中、いつも近道に利用する神社の境内で破れコウモリを拾った。
片方の羽根の皮膜に小さな穴がある。
放っておくと猫にやられるかもと思い、久間はそれを1LDKのアパートに持って帰ることにした。
先日、靴を買った時についていた箱を引っ張り出し、タオルを敷いて、そこにコウモリをそっと下ろす。
そしてネットで何が餌になるのか調べ、虫、と真っ先に出たので久間は困った。
駄目元で、コンビニ弁当についていたリンゴを一切れそばに置いてみる。
さっと一風呂浴びて、缶ビールと共に弁当を平らげ、靴箱の中を覗き込むと。
リンゴに齧られた形跡はない。
コウモリはちっとも動かない。
……まさか死んだのか?
久間は指先でちょんとコウモリに触れてみた。
……がさごそ
のろのろとコウモリは頭を擡げて久間を見上げた。
……あ、生きてる。
明日、お前が食えそうな虫、見つけてくるよ。
そして真夜中。
毎日続く残業に疲れ果て、ぐっすり眠っていたはずの久間は、妙な違和感によって否応なしに意識を呼び覚まされた。
……なんか、いやに、気持ちいいような。
……まさかこの年で夢精した……のか?
……もしくは疲れマラかな……それはあり得る。
がさごそ……がさごそ……
ん……? これ、何の音だ?
そこで久間はやっと目を開いた。
寝惚け眼で肘を突くとやや上体を起こし、自分の下肢に目をやる。
すると、そこに、誰かが…………。
「うわぁぁぁあっ」
仰天した久間は慌ててベッドから這い出し、部屋の明かりを点けた。
小ぢんまりした寝室がぱっと白く浮かび上がる。
その人物も照らし出されて、久間は、さらに驚愕した。
ベッドに座り込むのは、それはそれは綺麗な顔をした、一見してボンテージのセクシーお姉さん……だった。
白いフリルがついた黒のエナメルフレンチメイド風ドレス。
ミニ丈から覗くすらりとした足は白の網柄ガーターストッキングに包まれていて。
手の甲がほぼ露出した、中指に引っ掛けるタイプの光沢が美しい黒グローブをはめている。
ストレートのセミロングは赤髪で、眼鏡をかけていた。
簡潔に表現するならばエロインテリお姉さんといったところか。
「ごめんなさい、驚かせてしまって」
が、発せられる声は男、どう考えても男、幻聴でもなく、男。
そしてあろうことか背中には羽根が生えている。
片翼の皮膜には丸い穴が……。
ま、ま、まさか。
おいおい、夢だよな。
「ボク、貴方に拾われたコウモリです」
うわぁぁあ、来たぁぁぁ、この展開。
夢みたいだけど、夢じゃない、だって抓った頬が痛い。
「……ま……まじかよ」
「ええ、まじです」
正確にはインサバス、という淫夢魔です。
「い……いんさば……鯖?」
「インサバス、インキュバスとサキュバスの合いの子です」
インキュバスとは、女性と交わって生気を奪う男の淫夢魔。
サキュバスとは、男性と交わって生気を奪う女の淫夢魔。
インサバスは、男性女性関係なく、どちらからも生気を奪うことのできる淫夢魔だった。
「ですので、貴方の生気、頂いてもよろしいですか?」
男体インサバスのアクムはそう言ってにっこりと微笑んだ。
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