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双子チェンジ!!/年上×内気/おっとり肉食×やんちゃ

葉月(はづき)草介(そうすけ)は一卵性双生児だ。 幼い頃は両親からも見間違われたことがあるくらいくりそつ瓜二つ、そして仲のいい双子だった。 十六歳となった今でも二人は大の仲よしである。 「そうクン……昔はソレ、よくやったけど。今やったら怒られるだけじゃ済まないんじゃ……?」 一度も髪を染めたことがない、大人しい、内気な性格の葉月。 「大丈夫だって! バレなきゃ問題ないって!」 昔からイタズラ大好きな、茶髪で、天真爛漫な性格の草介。 幼い頃によくやっていた<入れ代わりごっこ>をもう一度やろうと草介に言われて。 消極的な葉月はもちろん反対した。 二十年目の結婚記念日旅行へ出かけて両親が不在であるのをイイことに草介は乗り気満々、鏡を眺めながら「髪の色はどうすっかな~」なんて抜かしている。 「そうクン。無理だってば」 「オレ、明日短縮だから。一日あっという間だよ」 「あ、明日……? いきなり明日? 本気?」 「そーだなー、葉月、ちょっとワルぶってみました、みたいなノリで? 一日だけ髪染めちゃいました! ってことにしよ」 そんなの無理あり過ぎるよ、そうクン。 夜、脱衣室で鏡を頻りに覗き込む草介を隣にして葉月は困り果てる。 すると草介はぐるりと横を向いて乗り気じゃない片割れに言うのだ。 「だってオレ、タケくんに会ってみたいんだもん」 『シャーペンの芯。落として全部折れた。一本だけ。葉月の、くれる?』 「ボクだって……カオリさん、会ってみたいけど」 『草介、三限の世界史、外で野球でもするか』 二人はそれぞれ違う学校に通っていた。 家に帰って学校の話をすれば毎日必ず特定の人物が互いの口から出てきた。 それぞれが親しくしている友達。 片割れが思い出し笑いまでして楽しげに話すものだからとても興味を引かれた。 会ってみたいなぁ、そう思いながらも、何かと忙しい高校生活で他愛ない好奇心は二の次に回され続けて現在に至る。 「ほんとにバレないかな」 「バレないって! だってほら!」 草介がぐいっと葉月を引き寄せて鏡には何もかもお揃いの顔が二つ並んだ。 「オレでもたまに間違うもん」 「それ、相当重症だよ、そうクン?」 次に写り込んだのはくりそつ瓜二つな笑顔だった。 翌日、フードパーカーに学ランを羽織ってショルダーバッグを肩に引っ掛け、ド緊張しながらも久し振りの<入れ代わりごっこ>にちょこっとワクワクしている葉月が草介の通う学校に登校してみれば。 早速、通学路でクラスメートと思われる生徒に「髪どした?」「黒に戻したんだ」「似合ってんじゃん」と次から次に声をかけられた。 「あ……うん、あっ、そーなんだよ、心境の変化っていうか!?」 危ない、素の自分で返事しちゃうところだった。 ボクは今、そうクン、小山田草介。 誰からも好かれる、明るくて、嫌味ったらしいところなんか一つもない教室のムードメーカー。 クラスメートに会ったおかげで迷わず下駄箱で靴を履き替え、教室へ行くことができた葉月。 しかし席がわからない。 自分のクラスよりわいわいぎゃあぎゃあ騒がしい教室、いっしょに来たクラスメートは当然速やかに席に着き、誰かに尋ねるわけにもいかず内心てんぱっていたら。 ぐわしっ 「わっ?」 「誰かと思ったら。頭に墨汁でも零したか、草介?」 いきなり真後ろから大きな手で頭を鷲掴みにされ、びっくりして振り返れば。 あ。 この人、絶対そうだ、カオリさんだ。 本来ならば二年生のはずだが留年して一年クラスに留まっている、赤く染めた長めの髪をハーフアップにして結ぶ、学ラン着衣をさぼって制服シャツにブラックのミリタリージャケットを羽織った江迎佳織(えむかえかおり)。 「カ、カオリさん」 つい素でそう呼んだ葉月に佳織は一瞬だけ目を見開かせた。 「カオリさんって呼ぶんじゃねぇ、オネエっぽくなるだろ」 次の瞬間には笑った彼に両手で髪をぐしゃぐしゃにされて葉月は目を白黒させた。 そうだった、そうクンやクラスのみんなは<カオリン>って呼んでるんだった。 ……それもそれでオネエさんっぽいけどな? 「ほら、更生した姿、一番前の席でセンセイに見せてやれ」 そうだった、あんまりにも授業中うるさいから一番前の席にされたって、そうクン、前に言ってたっけ。 一方、その頃、不慣れなネクタイを締めてブレザーを着込み、スクバを引っ提げた草介は葉月が通う学校の職員室にいた。 「だからスミマセンって何度もッ……あー気分転換と言いますか、自分見失った系? 気が付いたら髪の毛こうなってました、みたいなー……ごほッ、とにかく、今日中には戻しますから! すみませんでした!」

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