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双子チェンジ!!-8

ピンポーーーーン 「タ、タケくん、遅かったね?」 あたふた葉月がドアを開けば夕焼けを背にしてスポーツバッグを肩から引っ提げた武友が通路に佇んでいた。 「間違って。隣のマンション、行ってた」 「えぇぇえ? だ、大丈夫だった?」 「飴、もらった」 「そ、そうなんだ、よかったね?」 「よかった、かな」 どたどたどたどた!!バタン!! 「あっ、そうクン、逃げたっ」 「そうクン? 逃げた?」 「えっ、えーと、その、えっと」 リビングで武友を迎えるはずだった、が、緊張と不安に耐えられず草介が駆け足で玄関手前の自室に逃げ込んでしまった。 キョトンしている武友。 通路からでは草介の姿が見えなかった彼を前にしてどうしようどうしようと葉月がてんぱっていたら。 「葉月。とりあえず上がってもらえよ」 リビングから大股でやってきた佳織に助言されて葉月は武友を我が家へ招き入れた。 ブラックのミリタリージャケットは脱いでセーター姿の佳織はのっそり上がってきた武友と向かい合う。 「でかいな」 「でかい、です。髪、赤い。葉月のお兄さん?ですか?」 「ち、違うよ、佳織さんはね……っ」 葉月は草介の部屋のドアが細く開かれていることに気が付いた。 「ボクの双子の弟の友達なんだ」 葉月が双子だと初めて知った武友は「へぇ」と重たそうなスポーツバッグを壁にずりずりさせて相槌を打った。 「あ、荷物ここに置いて……? おーい、そうクン……入るよ?」 「そうクン」 「うん。草介って言うの」 「草介」 ドアを大きく開いて中を覗いてみれば朝からカーテンが閉められっぱなしで薄暗い室内。 隅のベッドがこんもり盛り上がっている。 「タケくんも入って?」 「いいの」 「うん。紹介したいから」 ネクタイを緩めてブレザーを羽織った武友を草介の部屋に案内し、葉月は、跪いた。 ベッドの中に潜り込んでいる片割れに笑いかける。 「そうクン。タケくん、来たよ?」 「……ん」 「ボクから言う? そうクンから言う?」 「……言ぅ、オレが言ぅ……」 葉月の背後で直立していた武友の目の前でさらに盛り上がったお布団。 もぞ、もぞ、揺れたかと思えば。 もぞり、茶色の髪、葉月とくりそつ瓜二つの顔が覗いた。 『今日の葉月はいつもの葉月じゃないんだよ』 「タケくん……っごめん、オレ、あの日葉月と<入れ代わりごっこ>やって……っ葉月のフリしてタケくんに会いに行って、それで……騙してごめ……」 葉月に続いて床に跪いた武友は草介がかぶっていたお布団ごと涙目な草介をぎゅっとした。 「あの葉月は。草介だったんだ」 いきなり抱き寄せられて金魚みたいに口をぱくぱくさせている草介。 すぐ隣でクラスメートの友達が双子の弟を抱きしめているという光景にぷしゅーっとまっかになる葉月。 「また会えて。嬉しい」 「タケくん」 「あの日の、葉月じゃない葉月。消えちゃったと思った。もう二度と会えないって、思った。でも。でも。葉月じゃない葉月、は、草介だったんだ」 よかった。 ほんとに。 また会えた。 やっぱり目が離せない。 かわいい。 キラキラ、眩しい。 「草介。草介。草介」 ぎゅーーーーっとお布団ごと武友に抱きしめられて、連呼されて。 うるうる目の草介は片割れも視界に入っていない様子で再会の抱擁に溶けかかっている。 まっかになりながらもそんな片割れと友達の姿に葉月はほっと一安心した。 ……あれ、佳織さんは? 部屋から佳織がいつの間に消え失せていることに気づいた葉月、ぎゅうぎゅう抱き合っている草介と武友のそばからそれはぎこちない足取りで離れ、廊下に出てみたら。 「あ」 壁に背中を寄りかからせて立っている佳織をすぐに見つけた。 玄関の曇りガラスから差し込む夕日に足元が照らされている。 「佳織さん、」 佳織はすかさず唇の前に人差し指を立てて「しー」というジェスチャーを、次に慌てて口を閉ざした葉月を緩々と手招きした。 葉月が無防備感丸出しで近寄れってみれば。 「ッ」 背中から思い切り抱きしめられた。 「か、佳織さんっ?」 「しー」 えええっ、そんなっ、「しー」って言われてもっ……こ、こんなの……っ。 「本当にただの友達だな?」 囁きじみた声で耳元で問いかけられ、苦しいくらいの抱擁に鼓動がどっきんどっきん加速して。 限界までド赤面した葉月は何度もコクコク頷いた。 「か、佳織さん、あの」 「しー」 ……ずるい、自分は喋ってるのにボクだけ喋らせてくれないなんて。 そんな気持ちは所詮、照れ隠し、だった。 葉月は自分の胸元を締めつける佳織の腕をカーディガン萌え袖なる手できゅっと握った。 壁を挟んで好きな人の腕にそれぞれすっぽりおさまって何とも甘い夕暮れを迎えた双子。 今日は二学期終業式だった。 そしてクリスマスイブでもあった。 「ツリー飾ってクリスマス会なんて小学校低学年ぶりだ」 「言っとくけど毎年飾んないよっ? 今日はカオリン来るからって、葉月が押入れから引っ張り出してきたんだよっ?」 「そうクン、こぼしてるよ」 「葉月。もう一枚。食べていい?」 昨夜、双子いっしょに慌てて準備したツリーが壁際で色鮮やかに点滅している。 前もって予約注文していたピザ、買っておいたホールケーキが並ぶダイニングテーブルを囲んだ四人。 「いーよいーよ、タケくん、好きなのいっぱい食べていーよ!」 「おい、草介。俺、それまだ一枚も食ってないぞ」 「あ、じゃあ俺の食べかけ食う、カオリン?」 「お前の食べかけより葉月の食べかけがいい」 「ぶはっっ……」 「きたなっ、葉月きたなっ、こぼしまくりっ」 「……ぅぅぅ」 「葉月。ふきふき」 「あ……ありがと、タケくん」 「ッ……タケくん、オレもっ、オレもこぼしちゃったよー!」 「帯屋。葉月は俺が拭く。草介は雑巾で拭ってやれ」 「うっさい!カオリンのばか!オレっ、ホコリじゃないもん!」 「や、やだ……佳織さんからふきふきされるの、ボク、恥ずかしい」 四人は仲よし清しこの夜、メリークリスマス?

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