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久留米と柊木くん/不良くん×ショタ/ぴゅあおにしょた

「このクソヤロー、覚えてろよ!!」 見知らぬ他校の高校生達に喧嘩を売られたので、ぼっこぼこに叩きのめすと、そんな台詞をぎゃーすか喚かれた。 高校二年生の久留米(くるめ)は汚れた両手をパンパンはたきながら言う。 「それ、捨て台詞ってやつ? 何か古くてだせーんだけど」 白に限りなく近い金髪の久留米は、身長体重は極々平均、着崩れさせた詰襟姿で、基本毎日手ぶら。 目つきが尖っているので喧嘩を売られることしばしば。 売られた喧嘩は買う、恋愛面においても、来るもの拒まず、去るもの追わず、なんて主義。 そんな久留米は現在アパートで一人暮らしをしている。 暮れ行く街並みを背景に、電車の座席に座り、帰宅していたら。 ぽてっ 肩に落ちてきた小さな頭。 見下ろすと、隣に座っていた小学生男児がこっくり船を漕いでいる最中だった。 子猫や子犬が割りと好きな久留米、自分より小さな小学生がこっくりするのをじっと眺める。 正面に座っていた他の乗客は、小学生がぼこられるのでは、と内心危惧し、冷や汗モノであった。 がたんごとん…… やがて小学生は目を覚ます。 膝上に置いていたトートバッグがずれ落ちていたのを慌てて引き上げ、小さな手で目元を擦った。 「おい」 小学生は声をかけられてびっくりする。 「お前、乗り過ごしたんじゃねぇの?」 その時、小学生は初めて自分が隣にいた久留米の肩にもたれていたことに気がついた……。 小学生の名前は柊木(ひいらぎ)君といった。 偶然にも柊木君の降りる駅は久留米と同じ場所だった。 辺りはすっかり暗く、柊木君があまりにもお利口さんそうな、大人しそうな、華奢な外見だったので。 久留米は彼を自宅まで送ってやることにした。 喧嘩をした直後で、あんな奴らと遭遇したら可哀想だと思ったからである。 擦れ違う第三者からは久留米が柊木君にちょっかいを出していると勘違いされそうだったが……。 「ありがとうございます」 高級住宅街にある柊木君の自宅は一際大きくて立派だった。 門前で久留米は新築のような家を見、どの窓にも明かりが点っていないことに首を傾げる。 「誰もいねぇの?」 「お父さんもお母さんも仕事で遅いんです」 「へぇ」 「あの、おにいさん」 明日、よかったら、お礼に一緒にごはん、だめですか? 翌日、放課後、久留米は柊木君のご好意に甘んじてファミリーレストランで早めの夕食をご馳走してもらった。 「久留米くん、高校生ですか?」 「ん。高一。柊木は? 小三くらいか?」 「ぼく、四年生です」 「へぇ。ちっせぇなぁ。あ、スープ、何がいい?」 「あ、ごめんなさい、じゃあコーンスープ、お願いします」 柊木君は見た目どおり、礼儀正しい、きちんとした小学生だった。 「家、でかかったし、お前って、金持ちのぼっちゃんってやつか?」 「?」 「頭もよさそうだな。俺のクラスメートより絶対いいはず。睡魔には勝てねぇよなって話してたら、そいつ誰だ、オレが倒す、とか言うバカばっかだから」 柊木君はくすくす笑う。 女の子みたいな男の子だ。 可憐なその笑い方に久留米は何となく目を奪われた。 「久留米くんの髪、きれいですね」 ナイフとフォークでハンバーグを器用に切りながら、両手でグラスを持って水を飲みながら、熱そうにスープをちょっとずつ飲みながら。 柊木君は可憐に笑う。 「ぼくもそんな色にしてみたいです」 何となく、守ってやりたくなる、小さな存在だった。 「ぼく、もうちょっとお話したいです」 ファミレスを出、夕方と宵の中間くらいの時間帯、また柊木君を自宅まで送っていたら。 カーブミラーの下でふと立ち止まって柊木君は久留米に言った。 「なので、公園に寄ってもいいですか?」 小さな手が指差した先にはフェンスと生け垣に囲まれた児童公園があった。 滑り台に砂場、ブランコ、鉄棒など、一通り遊具が揃った園内はなかなか広い。 外灯下に設置されたベンチに久留米は柊木君と並んで座った。 「この時期って、暑くもないし寒くもないし、丁度いいですね」 「ん、そうだな」 襟シャツにネイビーのセーターを着て、グレンチェックの半ズボンにハイソックス、革靴を履いた柊木君。 指通りのよさそうなさらさら髪が夕暮れの風に靡く。 「てかさ、お前、家に帰らなくて大丈夫か?」 背もたれに踏ん反り返った久留米に尋ねられて、柊木君は、そっと首を左右に振った。 「お父さんとお母さん、仕事で遅いんです」 「あーそういえば昨日もそんなこと言ってたな」 「うん」 家ではいつも一人です。 その一言がやけに物静かな公園に響いた気がして、久留米は、俄かに身を起こした。 「俺もそうだけどな」 「え?」 「一人暮らし。たまにダチが来て騒いでくけど。基本、やっぱ一人だな」 「……そうなんですか」 柊木君はその聡明そうな澄んだ双眸をぱちぱちさせた。 辺りは暮れ、薄いブルーがかった色に染まり、その肌はファミレスにいた時よりも瑞々しく見えた。 「久留米くんと一緒だと、なんだか、嬉しいです」 柊木君はそう言うと可憐に笑った。 花の香りがふわりと漂いそうな、愛らしい、清らかな笑顔だった。 ひゅぅぅうう~ 冷たい風が吹き抜けていき、さらさらな髪から本当に甘い香りが薫った。 柊木君はさもか弱そうな体を震わせて、セーターの袖口を伸ばすと、手をまるっと隠した。 「やっぱり、夜に近づくと、ちょっと寒いですね」 遥か頭上では星座が一つ一つと姿を現し始めていた。 常夜灯が次々と明かりを点していく。 今日もとりあえず登下校してきた学校が、食事をしてきたばかりのファミレスが、なんだかとても遠いことのように思えた。 不思議な感覚が久留米の内側に生まれていた。 「……薄着なんだろ。だいじょーぶか?」 何となく初めてのふわふわした感覚に首を傾げながらも、気を取り直し、久留米は寒そうにしている柊木君に尋ねる。 すると柊木君はあの笑顔のまま久留米を見上げた。 「平気です」 「……」 「だって、隣に久留米くんがいるから」 ああ、なんだろう、これって。 久留米は少し頭を屈めると覗き込むように顔を傾けて、柊木君に、キスをした。 ……俺、なにやってんだ? 小学生のガキにキスしてんのか? 割りと速やかに我に返った久留米。 おもむろに顔を離すと、とりあえずベンチの端に寄って柊木君と少し距離をとった。 割りと冷静でいられた彼は今の出来事を柊木君にどう説明しようか、考えようとした。 すると。 詰襟をきゅっと引っ張られて、久留米は、柊木君を見下ろした。 ほっぺたを真っ赤にした柊木君は、それでもあの笑顔を浮かべて、久留米を見上げていた。 電車で眠っていたときのように、久留米にもたれ、寄り添ってくる。 やべぇ。 なにこれかわいい。 ぴたりと寄り添ってくる柊木君の温もりに胸を火傷したような気分で、久留米は、暮れ行く公園の片隅で初恋なんてものとタイマンを果たすのだった。 end

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