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死にたがりな従者と狩人とガラスの靴/童話パロ/狩人×従者

■この話は別シリーズ「The Story of.....」から移動させた作品です ある国の王子が一夜にして恋に落ちた。 しかし想われ人となった少女はガラスの靴だけを残して王子の前から姿を消した。 城に仕える従者達は靴のレプリカを携え、そうして王子が恋をした少女の行方を探し出すという当てもない旅へ出た。 王子に忠誠を誓うライズもまた仲間と共に町から町へ、村から村へ、名も知らぬ相手を求めて方々を渡り歩いた。 気がつけば遠い異国の地へと訪れていた。 そこが恐ろしい獣の巣食う魔窟だとも知らずに、深い深い森へと足を踏み入れていた……。 「ギャウウウウウウウッ!」 大木の根元に座り込んだライズは二つの眉間に短剣を突き立てられた双頭狼が絶命するのを驚愕の眼で目の当たりにしていた。 「ここは呪われた森なんだ、お嬢さん」 背中に毛皮と猟銃を背負い、腰元に剣を差し、ブーツにナイフを忍ばせた狩人は驚いているライズに言う。 「昔々、どこぞの国の王にそれはそれは美しい妾がいた。 妾は魔女の血を引いていてな。 何よりも美しい彼女は女王の放った刺客にこの森まで攫われ、そして斧で首を斬り落とされた。 彼女の血は一週間尽きる事なくこの森に流れた。 土や水は穢れ、動物は異形の子を産み落とすようになり、森は呪われた。 だから頭二つの獣なんてここでは珍しくないんだ、お嬢さん」 お嬢さん、と呼ばれ続けたライズはやっと驚きから脱すると狩人を睨んだ。 「俺は男だ。お嬢さんではない」 「それならいい加減立ったらどうだ、いつまでも腰を抜かしていないで」 頭上高くで鬱蒼と行き交う枝葉が幾重にも空を覆う元、ライズは何とか立ち上がった。 今まで見た事もない異形の獣に追われて仲間と逸れてしまったが、彼等は無事だろうか。 「さっき、二つ死体を見つけた。あんたと同じ格好だった」 「……弔わなければならない。場所はどの辺だろうか?」 「もう他の獣に食われて骨も残っていないと思うぞ」 狩人がそう伝えた後、強い風が吹いた。 ざわざわと森が不吉に揺れる。 今まで聞いた事もない奇怪な鳴き声がそう遠くないところから聞こえ、ライズは否応なしに青ざめた。 「もうじき日が暮れる」 狩人は双頭狼に突き立てられていた二つの短剣を引っこ抜き、いやに粘り気のある血を無造作に茂みへと払う。 「おぞましい夜行性の異形が出るが、あんた、どうする」 急な展開についていけないライズは手元に残ったガラスのレプリカを心細さから抱き締めていたのだが。 よく見ればヒビが入っている。 ライズは途方もない遣りきれなさに襲われた。 途方に暮れて返事もできずにいるライズに狩人は気軽に提案する。 「俺の住処で一晩やり過ごすか」 狩人の名はノヴァといった。 森の奥深くに自分で建てた石造りの家に一人住む変わった男だった。 「こんなところ、さっきのような獣に襲われないのか?」 「お守りがあるから平気だ」 不安げなライズにノヴァはそう言って退けた。 心なき獣に通用するお守りなんてあるのだろうか……。 疑問に思うライズであったが、随分と頼もしいノヴァが言う事なので問い返すことはやめておいた。 そうだ……この者はあの気味の悪い獣が今にも俺目掛けて飛び掛ろうとしていたところに突然現れたかと思うと、短剣を一度に二つ放ち、見事それぞれの眉間に的中させたのだ。 相当の手練れであるのは確かだ。 こんな森でどうして狩人など……。 「結構、金になるんだ」 正体不明の肉が漬かったスープをアンバランスなテーブルに置くと、彼は訝しげにしているライズに話してくれた。 「金持ちには変人が多い。この森の獣の剥製を家に飾りたがる。毛皮も艶がよくてな、高値で売れる」 「……あんなものを壁に飾るのか」 「見慣れると可愛いものだぞ」 「……貴方も変人だ」 向かい側で平然と肉をかじるノヴァはフンと笑った。 こんなに逞しい男は城の兵士にもいなかった。 透明に近い水晶色の眼は滾々と湧く美しい泉を彷彿とさせる。 月と同じ色をした髪は短く、肌は白く、歯に衣着せぬ物言いがよく似合う不敵な男であった。 「あの話、本当なのだろうか」 静寂が流れると獣の鳴き声が耳につく。 沈黙を怖がったライズはノヴァに尋ねた。 「魔女の血によりこの森は呪われたのだろうか?」 尋ねられたノヴァはまた笑うと水晶の双眸に当惑するライズの顔を写し出した。 「本気にしたのか、お嬢さん」 浅い眠りに身を委ねていたノヴァは些細な物音にすぐさま意識を覚醒させた。 長椅子で手足を丸めて寝ていたはずのライズが壁の向こうから顔を覗かせ、ぼやけた薄明かりを背にしてこちらを窺っていた。 「眠れないのか、お嬢さん?」 「……お嬢さんじゃない」 底冷えする夜気を遮るため毛布を頭から被ったライズは迷わない足取りで床を進み、ノヴァの寝そべる寝台へと入ってきた。 毛布の下には素肌の感触が。 堅苦しい従者の装束は脱ぎ捨ててきたらしい。 「お嬢さんはこんな事をしない……」 逞しい体に覆いかぶさり、広げた掌をノヴァの下肢に這わせてくる。 ノヴァはライズの切れ長な目元を戯れになぞって、冴えた薄闇にどこか疲れた眼差しを放つ彼に問いかけた。 「礼のつもりか?」 「ああ。俺には自由に使える金がない……こんな事しかできない」 「城でもこんな事を?」 「……」 「こんな事、俺は好きだがな」 軽蔑の混じらない真っ直ぐな視線にライズは少し動じ、気を取り直し、それを始めた。 確かにかつて城でよく及んだ行為だった。 生まれ育った村を治める領主に小姓として従事し、ろくな教養も与えられず、顔立ちだけは整っていたから領主を含め好色な輩に何度も弄ばれた。 「あ……」 そんな薄汚れた俺と出会ってくれた王子。 まだ幼かった彼は周囲に反対されるも珍しく頑なに我を通し、地方領主から譲り受けた俺を一番の側役として選び、自分のそばにおくようにした。 『ライズは汚れてないよ。綺麗だよ』 優しい言葉と穏やかな気持ちを与えてくれる王子が俺は好きだった……。 「何、考えてる?」 慣れた律動を義務的に行っていたライズは気だるそうに真下のノヴァを見やった。 「割れたガラスのレプリカの事でも考えていたか」 胸の奥底に漂う嘆きを刺激され、ライズは、沈んでいた眼差しを俄かに鮮明にさせた。 「つまらないお遊戯を続けるんなら俺が動いてやる」 そう告げるなり思い切り突き上げてきたノヴァ。 ライズは思わず仰け反った。 何度か真下から勢いよく打ちつけられた後、寝台に押し倒され、両足の間に割って入ってきた彼に猛然と揺さぶられた。 急速な行為に痛みが走ってつい悲鳴が出、慌てて唇に歯を立てて耐えた。 「何が礼だ、心がこもっていないならそれはただの侮辱だ」 「あ……う……」 「本当は死にたかったのか」 痛みに攫われていたはずの意識がその問いかけによりライズの内へ速やかに舞い戻ってきた。 王子が恋した少女を探す旅路は苦痛でしかなかった。 いっそ見つからなければいい、そんな醜い考えを起こす自分を殺したくなる瞬間は確かにあった。 双頭狼に追いかけられて逃げている時も、もしも追い着かれたら、この苦痛からは逃げ果せられるのか……そう思った時点で足が縺れた。 心身の痛みに貫かれてライズは涙を流した。 彼の涙に気づいたノヴァは荒々しかった行為をおもむろに止めた。 「どうしようもない奴なんだな、あんた」 呟いたノヴァは身を屈めると涙するライズに口づけた。 「ッ……ん」 ライズは驚いた。 身を捩り、頼もしい裸の肩に両手を宛がって押し返そうとする。 しかし意外にも口腔を緩やかに弄る舌先に力が抜けて抵抗はまるで無駄に終わった。 苦しげに洩れていた悲鳴は次第に色香を含んで嬌声へと変わり、鼓膜を刺激する途切れがちな水音と共に静寂へと際立った。 「あ」 下肢を繋げたまま抱き起こされてライズは身を反らした。 唇が離れて透明な糸が下顎へと伝う。 毛布が滑り落ちて裸身が露となり、自分の状態も思い知らされてライズはさらに頬を紅潮させた。 「恐怖で使い物にならなくなったかと思ったが、そうでもなさそうだな」 ノヴァは楽しげにそう囁くと筋張った手で力み始めたライズの隆起を包み込んだ。 「や……っ」 これまで体を重ねてきた相手はただ己の快楽を見出そうと一方的な振舞をするばかりだった。 ノヴァもそんな独裁的な彼等と大差ないと、先程まではどこか冷めた気持ちがあった。 だが、彼は今、ライズの隆起に根元から先端にかけてゆっくりと愛撫を施している。 不慣れな甘い刺激はライズに並ならぬ動揺と羞恥を誘った。 「そんなの……やめてくれ」 「どうして。よくないか」 先走りに塗れた割れ目へと指先を添わせて蜜を掬い、ノヴァは小さく笑った。 「こんなにも濡れてる」 濡れた指先が今度は胸の突端に伸びてくる。 反射的に身を引こうとしたライズは些細な自分の動作によってノヴァの猛々しい隆起に肉壁を擦られる羽目に遭い、しなやかな背筋をビクリと強張らせた。 「あ……ん」 「一度、出しておけ。溜まってるみたいだ」 「あ……だめ、待っ……ぁ、っん」 ノヴァは下肢の動きは止めたまま屹立したライズのものを扱き立てた。 時に親指で先端の雫を掻き混ぜ、反らされた胸に唇を被せては勃起した突起に舌尖を絡ませてくる。 身を捩ると体内に埋められた肉塊が存在を誇張し、拡げられている感覚が否応なしに増し、ライズは成す術もなくノヴァの手管に流されるしかなかった。 「あ……!」 呆気なく達したライズがノヴァの隆起を今まで以上にきつく締めつけてきた。 ノヴァは奥歯を噛み締め、迫り来る放精感を一端やり過ごし、切なげに身を揺らしたライズの姿を細めた眼に刻みつけた。 「綺麗だな、あんた」 まだ繋がりを解こうとはせず、達したばかりで息の荒いライズを寝台に寝かせると、ノヴァは汗ばんだ額に掌を滑らせた。 「そういえば名前を聞いていなかった」 「……そんなもの……聞いてどうする」 「抱く時に呼ぶ名前がないと物足りない」 「……くだらない」 双頭狼に追い詰められていた彼は恐怖で青ざめていたが、それとはまた別に厭世的な影を纏っていた。 ひび割れたガラスのレプリカを大事そうに抱えてはいるものの、それを見る目つきは物憂げで、どこか歪な不安定さを引き摺っていた。 そして快楽に貫かれて一瞬だけ息絶えた彼の姿はとても色鮮やかにノヴァの視界には写った。 自分が与える熱に従順となり、翳りをなくして切なげに身を捩る様は、昏々と眠りについていた欲望を呼び覚ます代物に値した。 「当ててやろうか」 ノヴァは心持ち上体を起こした。 シーツに片頬を埋めていたライズは横目で彼を仰ぎ見る。 水晶の眼が淡い光を帯びたような。 「新しい名はライズ・フォン・ヴォンテ、古い名は…………だな」 「……仲間が呼んでいたのか? それを聞いたのか?」 「そうかもしれないな」 「……貴方は一体、何者なんだ……ッ、ん」 繋げたままの下肢を揺さぶられてライズの問いかけは否応なしに引っ込んだ。 仕舞いにはまたも唇を塞がれてこの上なく濃密な口づけを施され、その身を余す事なく緩やかに甘く深く屠られ、湧き上がりつつあった疑問は沈んでいくほかなかった……。 暁を控える薄暗い刻だった。 疲れ果てて眠りに落ちたライズにキスを落とし、ノヴァは寝台から底冷えする夜気へ逞しい上体を曝した。 外では相変わらず異形達の咆哮が尾を引いている。 だが奴等はこの家を荒らすどころか中へ侵入しようともしない。 自分達を育んだ、異形なりに恐れるのと同時に神聖視している母胎となるものがここにあるからだ。 「我が母よ」 大型獣の毛皮で閉ざされた奥の間にある、花飾りの細工が施された木棺に腰掛けてノヴァは長い足を組む。 そこには首のない屍が朽ちぬまま永遠の眠りについていた。 魔女の血を引く女が本当に愛していたのは刺客だった。 彼女は自らこの森で、刺客の前で、命を絶った。 刺客が首を持ち去った後に屍は一人の子供を産み落とした。 父親は誰か、王か、刺客か。 心なき獣か。 「あんたの愛がやっとわかったような気がする」 その命を与えてもいいと思える程の想いがこの世界にあるという事。 ガラスのレプリカなんて壊れ物を持ってどこへ向かうのか知らないが俺も共に行こう。 死に急ぐつもりなら快楽でもって地上に繋ぎ止めてやる。 もしも本当に死へ誘われるという時が来たら俺が代わりにこの命を捧げよう。 「たった一夜の抱擁ですべてがわかったんだ」 お前のために俺は屍から生まれ落ちたのだろう。 お前を愛するために、ライズ。 end

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