441 / 596

おばけでも好きさ-2

消え失せたマフラーとスニーカーの片方、欠けている記憶、正に前後不覚というか何と言うか。 どうしたらいいのかちっともわからない。 そもそも成す術なんかあるのか? それとも夢か、これは……。 「はい、どうぞ」 ぼんやりしている間に湯が沸いたらしい、コタツに入って放心していたら目の前にコーヒーカップを置かれ、俺は瞬きした。 「壁一点なんか見つめたりして、恭介らしくない。別れ話でも切り出されたの? あんなに仲よかったのに」 「えっと……うん、そう」 「へぇ。本当に? それで片方裸足で自分の部屋から飛び出したんだ。すごい気の動転ぶりだね。それも恭介らしくないけど」 パイプベッドに背中を預けて咲哉は喉を反らした。 俺は両手でカップを掴み、いつもと変わらない味のコーヒーを一口飲んだ。 とても熱い。 夢とは思えない温かさだ。 だけど体は冷え切ったままだ。 暖房の効いた部屋の中でコタツに入っているというのに、手足はただ冷たくて疎ましい虚無感を感じている。 「恭介、ジャケット脱いだら?」 「いんや、このままで……いい。俺、病気なのかも……狂ってんのかも」 「……どうしたの?」 「ちっとも、わかんねぇ」 どうして俺は咲哉のアパートに来たんだろう。 どうして彼女の芙美香の前じゃない?  家族のいる実家のところじゃない? どうして、何で……。 その時、咲哉の携帯が鳴った。 咲哉は携帯をとって相手の声を聞くなり、じっと見守っていた俺の方を見やった。 「……芙美香ちゃん、恭介はここにいるけど。 人違いじゃない?  ちょっと待って、もう少しゆっくり喋って……うん……うん。 ××病院に?  でも、ここにいるんだよ、実際。 替わろうか?  ほら、恭介……」 俺は差し出された携帯を受け取るや否や、通話を切った。 咲哉がきれいな二重の目を見開かせる。 その次に心持ち首を傾げて、薄い赤色の唇を開いた。 「事故ったんだ、俺」 俺は咲哉に何も喋らせるまいとして先に口を開いた。

ともだちにシェアしよう!