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続・raspberryな恋人-5

升野さんにすっぽかされた。 毎週、自然と楽しみにしている、よくある金曜日だった。 夜九時にウチに来ると約束していたのに、その時間から始まる二時間弱の映画が終了しても本人どころかメールすら一向に来ない。 「ひどい人ですね、升野さん……」 零時まで待っていた藤耶はそこで諦め、お風呂に入り、不貞寝した。 そして一時過ぎ。 玄関先でがちゃがちゃと響く物音。 寝入り端の藤耶は当然気がついたものの、すっぽかされた身で出迎える気にもなれず、ベッドに寝転がったままでいた。 「あっく~ん、こにゃにゃちは~」 合鍵を使って入ってきた智弘の第一声に藤耶は耳を疑った。 こにゃにゃちは? 四時間遅刻してきて、こにゃにゃちは? 「あれれ、寝ちゃったの?」 酒や煙草の匂いをぷんぷんさせる智弘、通勤鞄をその場にどさっと落としてコートと背広を脱ぐと、座椅子の背もたれに引っ掛け、薄暗い室内でしばしぼんやり佇んでから。 「あっくん、ごめんね?」 智弘はやっと藤耶に謝った。 酔っ払ってはいないようだ。 深夜の冷気に凍えていたのか、ぶーっと鼻をかんで、ベッドのそばにやってくる。 狸寝入りを決め込む藤耶に智弘は話しかける。 「飲み会、途中で切り上げる予定だったんだけど、いきなり上司が参加することになってさぁ。抜けるに抜けれなくって、スナックまで付き合わされちゃって」 でもメールの一件くらい送れたんじゃないですか。 たった一言でもいいから「遅れる」とか、伝えること、できたんじゃないですか。 「ねぇねぇ、ほんとに寝ちゃったの?」 智弘は壁の方を向いて頑なに反応しないでいる藤耶の肩を揺すった。 「ねぇねぇ、ねぇってば、おーい」 今、起き上がって明かりを点け、智弘と向かい合えば。 自分の胸に湧き上がるのはよりトゲトゲした感情ばかりだろう。 それが嫌で回避したくて藤耶が狸寝入りを続けていたら。 「夜這いしてやる」

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