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トモ活しちゃう?/無愛想男子×わんこ男子
「さっむい! 指の感覚ない! 鼻凍る!」
師走、容赦ない北風が吹き荒ぶ校庭で無情にも行われる体育の授業。
ジャージの上にチェック柄マフラーをぐるぐる巻いた幸村凛空 は、体育教師がやってくるまで、親しいクラスメートにひっついて寒さを和らげようとしていた。
「これはカイロの感触!」
「こら、ゆっきー、俺のカイロとるな」
「分けてっ、半分分けて!」
「中身出ちゃうだろ、むり」
「寒い寒い寒い寒いっ」
ちょっと短め茶髪、背の順だと高い方に配される凛空は背中をぐっと丸めて自分より身長が低い友達にひっつき回っていたのだが。
「あ! 手頃な風よけ発見!!」
大声でそう言うなり一人のクラスメートの背中にしがみついた。
「うわ、樫井に……」
「ゆっきー、よくやるわ……」
友達は凛空の行動に呆れた、というよりヒき気味だ。
「おわぁっ、樫井の背中マジでジャストサイズ! 俺のナンバーワン風よけ!」
「……」
いきなり背中に突進してきたかと思えば無邪気にしがみついてはしゃいでいる凛空に、彼は、恐ろしいくらいのノーリアクションでいた。
クラスで一番背が高い樫井 だ。
口数が少なく、つるまず、媚びず、教室でアウトロー的存在の男子生徒。
手つかずの黒髪、常に乾いた眼差し、今シーズン一番の冷え込みだというのに「さむ」の一言すら口にしない。
ちなみに写真部に所属している。
根暗だとか無愛想だとか陰口を叩かれたって、なーんとも思わない、シニカルな高校生だった。
「すごい、お父さんの背中みたい! 俺のおとーさん俺よりちっちゃいけど!」
そんな182センチの樫井の背中に175センチの凛空は教師がやってくるまでしがみついていた。
「ゆっきー、よく樫井にじゃれつけるよな」
「樫井って俺より背が高いからさ。じゃれつき甲斐あんだよね」
「俺等ちっちゃくて悪かったな」
「でも、他にも何人かいるじゃん? ゆっきーより高い奴」
「あの辺はなんか運動部独特のプライドとか強そう。だから。遠慮してマス」
「何気にじゃれつく相手ちゃんと選んでるのな」
「でも樫井みたいなド放置プレイもどうかと思うけど。人間性疑うけど」
「一日一回もしゃべらないとかやばくない?」
樫井に対しマイナスの印象を抱く同級生は多い。
高校二年で無愛想男子と一緒のクラスになった凛空は、人懐っこい性格で割と誰からも好かれる、でも実は相容れそうにない相手を自然と判別してスキンシップを調整していた。
「消しゴムなくした、樫井の、半分もらってもい?」
現在、凛空と樫井の席は前後に並んでいる。
前の席にいる樫井の背中をシャーペンの尖っていない方で小突けば、無造作に千切られた消しゴムが無言で贈呈された。
「さんきゅ」
授業中のため凛空は小声で目の前の背中にお礼を告げた。
樫井、ほんとでっかい背中。
黒板見づらいとか久し振りだよな。
この距離だと、でっかいっていうか広い、日が上って沈みそう。
……あ、メール来た。
……樫井の後ろだとスマホもさくさく見れて助かる。
みぃちゃんから、か。
金曜楽しみだねー、だって。
ラブホとか、お金もったいないし、まだ先でもいいと思うんだけどなー……。
期末テスト終了クリスマス目前記念ということで、違う高校に通う彼女に誘われ、生まれて初めてラブホを訪れた凛空は。
「樫井だ!」
無人受付のパネル一覧前で見覚えのある背中が視界に入った瞬間、状況も忘れ、ここ最近のクセに従って駆け寄るなりしがみついた。
「樫井じゃん! 何してんの!? 街で会うとか偶然スギじゃ!? てか樫井も街とか来るんだ! 樫井って人ゴミとか苦手そうだし! あ、私服そんな感じ!? てかほんと何して……」
そのとき、やっと、凛空は気がついた。
樫井の隣に俯きがちに立つ女性の存在に。
「あ」
やはり樫井は一切返事もせずに凛空をべりっと引き剥がし、彼女を連れ、速やかにラブホの外へ去って行った。
「今のコ、ゆっきーの学校のコ? すっごくオトナっぽかったし、すっごく年上のカノジョじゃなかった?」
私服に着替えていた自分の彼女に問われて、同じく私服姿の凛空はコクンと頷いた。
グレーのダウンジャケット、チノパンにツイードのスニーカー、さり気なく髪をセットしていた、いつもと雰囲気が違って見えたクラスメート。
背中だけでよくわかったものだと、ぼんやり、凛空は自画自賛した……。
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