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トモ活しちゃう?-8

無愛想男子のことを遠巻きにしている女子もいれば、反対に興味を示す女子もちらほら現れ始め、凛空は内心慌てていた。 「ゆっきー、背ぇ高い、なんか部活してる?」 「この曲歌える?」 「ウチってどの辺?」 実際、人当たりがよく見た目も悪くない凛空こそ最も女子の人気を集めていたのだが。 質問に答えたり歌ったり注文送信したりと忙しく、ドアから近いソファの端っこに居続ける樫井になかなか近づけず。 強者(つわもの)女子に話しかけられている彼の姿が視界の隅に写り込むと気が気じゃなくなった。 うわぁん、こーいうの何て言うんだっけ、本末転倒? ど、どうしよう、樫井がこの中にいる誰かと付き合い始めたら! そのコのおかーさん相手にママ活始めたらどうしよう!! そのコのおとーさん相手にパパ活始めたらどうしよう!!?? 「ちょ、ちょっとトイレ行ってきます!」 不安がどっと押し寄せてきた凛空は波打つ心を落ち着かせるためトイレ休憩へ向かった。 「あれっ」 特に落ち着くこともなく通路途中にある男子トイレから出てみれば。 一番積極的に話しかけてくれた女子が凛空のことを待っていた。 「ゆっきー、このあと、二人で会うとか……どーかな?」 ああ、俺って、俺って、すごく嫌な奴。 樫井と一緒にいたいからって、合コン参加して、相手のコ達のこと全く考えてなかった。 周囲も目に入らなくなるくらいの、こんな強烈なワガママ持ったの、初めてだ。 「ごめんけど……」 これまで二人に告白され、傷つけるのが怖くてその場で受け入れてきた凛空は、自分に好意を抱いてくれた相手のお誘いを初めて自ら断ろうとした。 「そいつママ活やってるぞ」 店内に流れる音楽や通路に洩れる歌声に引けを取らない図太い一声が凛空の言葉をぶった切った。 「後で痛い目見るからやめとけ」 スマホ片手にカラオケルームから出てきた樫井は、ヒいている女子と、呆気にとられている凛空の元へやってきた。 「無害そうなかわいい顔して女から金巻き上げるの得意なんだよ」 得体の知れない口の悪い無愛想男子と、全く反論しようとしない凛空にさらにヒいた彼女は「なんかごめん、さっきのナシで」と早口で告げて女子トイレへ駆けていった。 騒がしい通路に残された二人。 自分がママ活していると出鱈目を言われて憤慨しているかと思いきや。 「か、かわいいって……いきなりそんなこと言われたら、俺……」 呑気に照れている凛空に樫井は呆れた。 「男のクセかわいいって言われて舞い上がるのか、お前」 「かわいいって何に対しても褒め言葉じゃないの……かわいいって貶す奴いるの……?」 「知るか。もう帰る」 「えっっ」 「そもそも何でこんな馬鹿馬鹿しいモンに誘った」 「それ、は……」 「これもツケとくからな」 「えぇぇえ」 「当たり前だ、貴重な時間裂いてやったんだから」 「あぅぅ……はぃぃ……」 今一体いくらになってるんだ、樫井へのツケ、怖ぃぃ。 「あっ」 階段を下りて出入り口へ向かおうとした樫井の腕を凛空は咄嗟に掴んだ。 ジロリと見下ろされて、一瞬うっと口を噤んだものの、視線を逸らしてもごもご続ける。 「せ、せっかくのイブだし、樫井と一緒いたくて、でも直球で誘って断られたら……俺、最悪転校するしかないし……二人っきりではないけど、それはそれで……いいかなぁって……」 樫井は思いっきりため息をついた。 「じゃあお前も帰れ」 弱々しい拘束を簡単に振り解いて階段を下りていく。 凛空は慌てふためいた、幹事の友達にまだお金を払っていない、スマホと財布はチノパンのポケットに入れてある、このまま帰ることは可能だ、だがしかし未払いの上イブ合コンを勝手に途中退席するのも気が引けて、 「樫井っっっ」 部屋が空くのを待っている同年代の客で混雑した一階の受付フロア。 ちっとも振り向いてくれない無愛想男子の隣に凛空は並んだ。 「お、俺も樫井と帰る」 二人揃って高身長で異性の注目を浴びていたが全く気に留めることなく凛空は樫井の横顔だけを見上げた。 本日きっての真っ直ぐな眼差しに樫井は僅かに頷いた。 強烈なワガママ二連発、みんなごめんなさい、でも後悔してない、です。 イブの日にちょっとだけでも樫井と二人になれて、ぶっちゃけ、しあわせで、 「ドラッグストアでローション買っていくぞ」 え、ローション? それって化粧水のこと? 樫井、お肌でも気にしてるのかな?

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