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天使にチョコレートを-3

人間界については天上界で色々と見聞きしていたが実際訪れたのは初めてだったパピコ。 何でも食べたがり、正直食い意地が半端なかった不良天使は、当然二月恒例のイベント行事にも興味を持った。 「はい?」 「バレンタインデー。オレに山ほどチョコを捧げろ」 寝転がってコタツでぬくぬくしていたパピコに命じられて、真太郎は、とうとう堪忍袋の緒が切れそうになった。 「あのなぁ、パピコッ、」 「あ?」 見目麗しい不良天使の凄味にヘタレリーマンが太刀打ちできるわけがない。 「……畏まりました」 「よろしー」 こいつほんとに天使なの、白い羽生やした悪魔なんじゃないの? 男の身でチョコレート売り場を行き来するなんて生き恥を曝すようなもんだと絶望しかけていた真太郎だが。 「あれ」 意外にもちらほら、圧倒的に女性の人数が多かったものの、男性の姿も見かけることができた。 そうか、実は最先端いってるのかも、今の俺。 男連中は自分や彼女に買ってるんだろうけど、居候の天使相手に買ってるなんて、俺だけだろうけど……さ。 デザイン豊かな色とりどりのチョコレートの紙袋を両手いっぱいに携えて真太郎が帰宅してみれば。 「むにゃ……」 当の不良天使はコタツでぬくぬく眠っていた。 「このやろー、人に買わせておいて……ったく」 天使の性質上なのか、ずっと同じ制服を着ていて、風呂に入らずとも無臭、むしろふんわり甘やかな香りが漂うパピコ。 一先ず大量の紙袋を床に下ろした真太郎はパピコの寝顔を見下ろした。 こうやって眠ってたら、そりゃーもう、どこぞの王子様みたいな。 いや、お姫様か……? 「パピコ、せっかく買ってきたんだから、ちゃんと当日に食べてくれよ」 もうじき日付が変わろうとしている真夜中。 真太郎はすべすべ瑞々しいパピコの頬にそっと触れてみた。 すると。 ぱくんっ 「え」 床にしゃがみ込んでいた真太郎はぎょっとした。 寝惚けているのか、目を瞑ったままのパピコが……指にかじりついてきたのだ。 なんだこいつ、実は人肉もいける肉食天使か……!? 一瞬、そんな恐れに駆られたヘタレリーマンだったが。 食いつくというより、パピコは、真太郎の指をちゅうちゅう吸ってきた。 正に指しゃぶり。 無防備状態に現れる羽を背中でピコピコさせ、赤ちゃんみたいに無心にしゃぶりついてきた。 「……」 え、え。 なにこれ、これなに。 動揺して硬直していた真太郎の視線の先で、パピコは、そのブルーグリーンの瞳をゆっくりと開かせて。 状況を確認するや否や……ぶわりと真っ赤になった。 「パピコ」 「ッ……おえッ……変なもん食わせんじゃねーよッ!」 「お前が自分から」 「しっ、知らねーもん! ううううッ!」 パピコは珍しくそれ以上言い返さずに淡く煌めく双眸をうるっと涙ぐませて閉口してしまった。 「し……知らねーもん……わかんない……ぐすっ……」 不良天使が初めて狼狽えて涙する様に。 真太郎は猛烈に……滾った。 「わっっ!? ちょ、いきなりっ、何すんだよっ……!?」 これまで二人の女性とお付き合いし、当時発揮されることのなかった度胸+強引さでパピコを床に押し倒し、かつてないムラムラ感に突き上げられて勢いのまま……。 「この……ッヘタレ変態リーマン……ッ地獄界に落としてやる……!!」 パピコとセックスしてしまった。

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