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同罪のすゝめ/高校生×中学生

夕闇にゆっくり浸かっていく団地の片隅でミチルはふと足を止め、両手に抱いた、タオルに包まれたそれを見下ろした。 「早く落ち着けるとこ、探そうね」 「ミチル?」 ミチルが振り返れば電信柱の横に年嵩の少年が立っていた。 集団登校でいつも面倒くさそうにしながらも、年少のこどもたちをしっかり纏めて学校へ連れて行く六年生の馳川恭彦(はせがわきょうひこ)だった。 「恭兄ちゃん」 「一人で何してんだ、それ、何だよ」 「ねこ」 「拾ったのか?」 「うん」 ミチルが抱いていたタオルの中をひょいと覗き込み、恭彦は、思わず「あ」と声を洩らした。 「埋めるの。道のはしっこに転がってた。かわいそうだから持って帰ったら、お母さんに怒られた」 「そりゃ、怒るだろーな」 「元の場所に返してきなさいって。でも、埋めようって思って」 「うん」 「でもいい場所が見つからないの」 公園の茂みの裏は土が硬くて掘ることができなかった。 河原の土手に埋めようかとうろうろしていたら知らないおじさんから「早く帰りなさい」と注意された。 「じゃあ、あそこ、神社の裏に埋めよう」 「そこ、怒られない?」 「さぁ。ほら、行くぞ」 差し出された恭彦の手を、ミチルは、きゅっと掴んだ。 ■五年後 私立の中学校に通う一年生のミチルは学校が終わると担任の芹澤(せりざわ)に実験室の掃除を頼まれ、掃除時間に他生徒がきちんと片づけたはずの広い特別教室を一人で掃除するのが日課になっていた。 「ありがとう、織野(おりの)君」 実験テーブルの一つについて顕微鏡を覗き込んでいた白衣姿の芹澤は一時間かけて掃除を済ませたミチルに微笑みかけ、小さな頭をそっと撫でた。 それからミチルは図書館で宮沢賢治の童話集を返却して、閉館時間まで中原中也の詩集を読んで、バスに乗って帰宅した。 夕闇が漂い始めた団地の片隅でミチルは知らない少女とキスしている恭彦と目が合った。 ■翌日 「ミチル?」

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