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それでも添い遂げ心中/残念美形くん×男前くん

苑田(そのだ)には自殺願望があった。 生きてることはつまらない。 それに比べて謎だらけの死には興味がある。 一回死んでみたい。 十五歳、通学している私立学校の屋上、裏庭側の手すりに腰かけた苑田。 放課後、部活動真っ最中である校庭の喧騒を聞きながら生い茂る茂みに体をぐらりと。 「やめろよ」 振り返れば椛島(かばしま)が立っていた。 苑田とは違うクラスにやってきた父子家庭の転校生。 中学生にしては大人びた落ち着きがあって、運動部に所属していそうな雰囲気、実際はコックである父親に似て料理が好きな十五歳。 不意打ちの出会い。 苑田の色褪せていた視界に鮮やかな色を注いだ同級生。 一瞬にして苑田は椛島の虜になった。 だからと言って自殺願望が途絶えたわけではない。 「おい、苑田」 廊下の窓からやたら前のめりになって下を覗き込む苑田のブレザーを引っ張って校内に引き戻す椛島。 「だめだ、苑田」 歩道橋で快速に流れる車道にふらりと引き寄せられて過剰に下を覗き込む苑田を真ん中に連れ戻す椛島。 「苑田ってば」 遮断機の下りた踏切前に立てば迫る電車につられて前へ進もうとする苑田の手を握って歩行を制限する椛島。 危うい苑田に椛島は気苦労が絶えなかった。 「その癖やめろよ、苑田」 「うーん」 「勝手だよ、苑田は」 「何が勝手なんだ? 自分の命だぞ? 自分の好きなように扱って何が悪いんだ?」 「逆になって考えてみたら」 「逆?」 「もしも俺が苑田の目の前で死んだとしたら、お前、どんな?」 僕の目の前で椛島が死ぬ。 そんなことを考えた瞬間、苑田の双眸にぶわりと湧き上がった涙。 「うわぁぁッッッ」 「えっ。どうした、苑田?」 「やだやだやだやだッ椛島ぁッ死んじゃやだぁぁぁッ」 「いや、俺は苑田じゃないから、自殺願望なんてないし」 「置いてかないでぇッッ」 椛島のクラスで椛島に抱きついてぎゃーすか泣き喚く苑田にクラスメートは「……苑んちゅが錯乱してる」と完全ヒいて、保護者の椛島を憐れんでいる。 妙な空気が沈殿する教室で椛島だけが笑っていた。 「置いてかれるの嫌だって、やっとわかってくれたか?」 うんうんッ!わかったッ!わかったよ、椛島! これからの僕は椛島のために生きていくから! 椛島のためだけに僕はずっっと存在するから! そのまま内部進学で高校に上がった苑田と椛島。 趣味は椛島、好きなものは椛島、嫌いなものは椛島以外である苑田、違うクラスだろうがお構いなし、中学時と変わらず隣教室に入り浸る日々を送っていた。 「苑んちゅ、入ってくんじゃねぇよ」(by女子) 「いい加減、椛島のこと自由にしてやれって、この変人苑んちゅが」(by女子) 怒りオーラを立ち上らせてドア前に立ち塞がる女子、性格も見た目も非の打ちどころがない椛島は高校生になっても男女問わず人気があるのだ。 そんな女子に苑田は思いっきりあっかんべー、した。 「くそむかッ」 「帰れッ」 「ん、あれ、苑田?」 気が付いてやってきた椛島に女子は決めスマイルを向け、苑田をギロリと一瞥して去っていく、痛くも痒くもない苑田は……恒例のご挨拶、堂々と椛島に抱きついた。 「椛島、今日もいい匂いだ」 「俺が朝に食べた豚トロ玉子丼の匂いじゃ?」

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