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それでも添い遂げ心中-4
「今日から昼は別々にとってくれるか、苑田」
お手製のサンドイッチを苑田に手渡すのと同時に椛島はそう告げた。
昼休みに突入したばかりで食堂に向かう生徒、仲のいい友達同士がそれぞれ集まってランチの準備を始める中、教室の片隅で苑田はキョトンと首を傾げた。
「俺、今日から別の人と食べるから」
椛島が視線を向けた先、教室後方のドアの向こうに一人の女子生徒がチラチラと見え隠れしていた。
「彼女と付き合うことにしたんだ」
「え!!」
「ガーン!!」
「ショックぅ……」
盗み聞きしていたクラスメートが青ざめる中、苑田は、意外にもこっくり頷いた。
「わかった」
あ。
この間は意地でも俺のことベッドから離そうとしなかったのに、こんなにもあっさり。
「じゃあこのサンドイッチも今日までか」
「え? あ、ううん、サンドイッチは作ってくるよ」
「頼む」
俺って苑田にとってただの胃袋係か抱き枕係に過ぎないんじゃあ。
自分に告白してくれた同級生の女子生徒と付き合うことにした椛島。
告白されるまで全く知らなかった彼女のことをこれから徐々に知って、好きになろうと思った。
小柄で、どこかまだ緊張している笑顔が可愛らしくて、好印象だったから、好きになれると思った。
守ってあげたい、優しくしたい、大事にしたい、そう思った。
「苑んちゅのウチって三階建てってホント?」
「三階建てだ。エスカレーターがついてる」
「エスカレーター!? すご!」
「それってエレベーターじゃなくて?」
「三階建てだ。エレベーターがついてる」
「さり気なく修正してきたww」
食堂で彼女と和やかな昼休みを過ごして教室に戻った椛島は目を見張らせた。
「屋上でバーベキューもできる」
「バーベキューいいな!」
「行きたいっ」
「参加費一万円からだ」
「高ッッ!!!!」
椛島の席に着いた苑田の周りにクラスメートが群がり、おしゃべりに華を咲かせていた。
「苑んちゅってアホみたいに素っ頓狂だけど、やっぱりきれいな顔だよね」
「黙ってれば百点満点」
遠巻きに眺めていたクラスメートの会話が耳に入り、椛島は、普段は貶している割に楽しそうに話しかけている同級生越しに一人真顔でいる苑田を見た。
「ジャグジー入浴も追加するなら一万五千円からだ」
本当、これって最善の選択肢かもしれない。
俺の元から苑田を卒業させて、みんなと普通にコミュニケーションをとれるようにして、これから先の世界がもっと広がるように、二度と「死ぬこと」なんか思いつかないくらいの喜びを見つけてもらえたら……。
苑田、いつか誰かに恋するんだろうか。
「はぁ……ッ」
深夜、自室の床に座り込んだ椛島はベッドに俯せて荒い呼吸を繰り返していた。
先日に同衾した苑田の微かな残り香を必死になって拾い集めて。
シーツに顔を埋め、ズボンを寛げて外気に曝した股間上で利き手をがむしゃらに動かしていた。
俺、頭おかしくなったのかな。
急にこんなことに目覚めるなんて。
「……苑田……」
触られたい、鷲掴みにされたい、舐められたい、貫かれたい、そう思う。
俺とだけ話してほしい。
俺のことだけ見てほしい。
俺にだけ心を許してほしい。
椛島はきつく目を閉じた。
掌に弾けた白濁。
脳裏に思い描いていた、自分自身のあからさまな欲望に、目尻からポロリと零れ落ちた涙。
「……苑田のばか……」
宇宙レベルの絆って意味がわからないよ。
そんなものほしくない。
もっと身近で、ありふれた、でもかけがえのない絆の方がいい。
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