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SATURDAY,JUNE ☓☓ at ☓☓ PARK/ノンケくん×隠れゲイくん=幼馴染み

「マキちゃんと同じクラスになりたくなかった」 高校二年生に進級して迎えたクラス替え。 知っている顔もあれば、まるで知らない同級生もいて、空気が新鮮に感じられる賑やかな教室で。 同じクラスになった幼馴染み・有原允(ありはらみつる)に割と冷たい言葉を投げつけられて睦月槇哉(むつきまきなり)はムッとするよりも先に。 「允、その痣どうしたんだ?」 セーターの袖口下に覗いていた允の右手首の痣に目を見張らせた。 「別に」 允はすぐに左手で右手首を覆い隠し、それきり何も話そうとせず、槇哉は仕方なく自分の席に戻った。 「むっちゃん、有原と仲いいの?」 「允とは幼馴染みだよ」 「えっ、そうなん?」 「幼稚園も小学校も中学も一緒」 「で、高校も同じ、と」 「去年はフロアも違ったし、あんまり話す機会がなかったんだよな」 「今さっき、割とひどいこと言われてなかった?」 「あー、そうだっけ。允って昔からあんな感じだから」 「懐深いわ、むっちゃん」 玄関前に貼り出されていたクラス表。 みんな大騒ぎで、喜んでいたりショックを受けていたり、記念撮影していたり。 允と同じクラスになった。 同じ帰宅部で近所同士なのに行きも帰りも会わないし、でも、今年からは前みたいに話せるかなって思った。 アイツからは真逆の言葉をブン投げられたけど。 『マキちゃん、おれのひじきサラダぜんぶあげるから肉と交換して』 前みたいに呼んでくれたから、まぁいいか。 「睦月クンってウチどの辺?」 槇哉は協調性があって見た目も性格もスマート、話しかけやすい陽の雰囲気を持っていた。 「むっちゃん、金曜さ、親睦会兼ねてみんなでカラオケ行かん?」 「睦月クンのカノジョってどんな? かわい?」 当然、新しい教室でのクラスメートの輪から弾かれることもなく、すんなり馴染んで、高二ライフの順調なスタートを切っていた。 「家は☓☓町だよ、カラオケ、近場の店なら友達がバイトしてて半額クーポン持ってる、ソフトクリーム食べ放題」 「お~~、さすが睦月クン」 「で、カノジョは? 友達多め? かわい?」 「お前な、カノジョ欲しいからって、むっちゃんをダシに使うな」 付き合い始めて一年近くになる、女子高に通っている彼女がいる槇哉は「友達は普通にいるけど、しょっちゅうダブルデートで呼ばれるし、みんな彼氏いるみたいだ」とシビアな現実を伝えておいた。 「「「ダ、ダブルデート」」」 休み時間、クラス替えで知り合ったばかりの同級生がゴクリと息を呑む傍ら、槇哉は窓辺の席へチラリを目をやった。 机に突っ伏した允は耳にイヤホンをし、スマホで音楽を聴いているようだった。 開け放たれた窓から風が入り込んでカーテンの合わせ目が歪に波打っている。 時折、午前中の眩しい日差しがカットをさぼって伸び気味の黒髪や背中に小さな日だまりをつくっていた。 寝ていると思しき允の元を一人の女子生徒が遠慮がちに訪れた。 違うクラスの彼女は指先で肩をトントンし、顔を上げてイヤホンを外した允に教科書を貸してほしい、とお願いした。 「次の休み時間、トイレのついでに取り行くから、アンダーライン引いてくれたら助かる、俺が引かなくて済むから」 一年時に同じクラスだった彼女は笑って、差し出された教科書を両手で受け取り、教室を出て行った。 允は、愛想はないものの、さり気ない親切や気遣いに無意識に及ぶような人間だった。 重たい荷物を運んでいた場合、槇哉ならば「持つよ」と声をかけて隣に並ぶ。 無言で奪い取って何歩か進んだ後に「どこ持ってけばいいの、これ」とぶっきら棒に尋ねるのが允だった。 「允、一緒に組もう」 体育の授業でペアになって準備運動、バトミントンの打ち合いをすることになり、クラスメートから声をかけられるより先に槇哉は允に声をかけた。 「えー、有原に睦月クンとられちゃった」 「打ち合いっこしたかったのにー」 ジャージのジッパーを喉元まできっちり上げて萌え袖状態の允はふざけている彼らをガン無視し、声をかけてきた槇哉を鬱陶しそうに見返した。 「睦月クン、あいつらと組んでやれば」 「え? 允がクン付けで呼ぶとか、何か気持ち悪い」 「……」 「ちんたらするな! ちんたらしてる奴は俺と組ませるぞ! 三人になってもいから早く組め!」 「怖ぇ、あの体育教師、去年の小川センセは優しかったのに」 周囲はあたふたとペアになって準備運動を始め、ジャージを腕捲りした槇哉に「田口先生と組みたいなら俺はどこかのペアに入れてもらう」と言われて、允はジロリと幼馴染みを一瞥した。 「マキちゃん、相変わらずの偽善者め」

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