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SATURDAY,JUNE ☓☓ at ☓☓ PARK-6
大好きな幼馴染みとまた一緒に学校生活を過ごすことができる喜びで浮かれていたのも束の間のことだった。
『なぁ、允、俺、カノジョができた』
雨上がりの瑞々しい夕空に耳を劈 く爆音の洪水と歓声が吸い込まれていく。
心臓にダイレクトに届くような鼓動じみた音符の羅列。
バリケードフェンスやロープで区切られたブロック、ライブは終盤に差し掛かってボルテージは最高潮、ステージに近い最前列は押し合い圧し合い状態で。
後方でリラックスして見ていた客もすっかり心を奪われ、感極まって泣いている女性ファンもいた。
槇哉と允はほぼ真ん中のブロックにいた。
大盛り上がりの周囲と同じく、ステージで真摯に演奏に魂を込めているバンドに複数の頭越しに視線を注いでいた槇哉は、ふと隣に目をやった。
通り雨に濡れ、一度も染めたことのない黒髪や長めの睫毛から水滴を滴らせ、允はステージに釘づけになっていた。
強炭酸みたいに鼓膜で弾けていくストイックなハイトーンの声。
以前のライブでも聴いた大好きな曲を聴きながら、槇哉は、思った……。
「晩ごはんどうする?」
「今ちょっと飯のこと考えられない」
「駅前でラーメン食べようか」
「お前、ライブ後の感慨とかないわけ」
「允はお腹空いてないのか」
「めちゃくちゃ空いた」
潮風の吹き渡る海際の海浜公園で行われたライブの一時間後。
上から下までぐちゃぐちゃになった二人は、最寄りの駅付近に昔からある中華料理店で普段より遅めの夕食を食べた。
「まだ耳がツーンってしてる」
買ったばかりのツアーグッズなるタオルを首に引っ掛けた槇哉は、テーブルを挟んだ向かい側で耳鳴りを気にしつつ醤油ラーメンとセットで頼んだ餃子・炒飯をむしゃむしゃしている允に小さく笑った。
同じクラスになって二ヶ月くらい過ぎて、やっと、普通に話せるようになった。
時々わけもわからず噛みつかれることもあるけれど。
四月、五月、たまに制服シャツの第一ボタンをきっちり留めていた允に胸をギシリと軋ませることもあった槇哉は、具だくさんのタンメンを啜った。
三時間を超えたライブで空腹だった二人はあっという間にセットメニューを完食した。
店を出たのは夜九時前。
それぞれの自宅まで五分もかからなかった。
「マキちゃん、公園行こう、第二の方」
自宅に帰らずに寄り道した。
昔、よく遊んだ公園の湿ったブランコに並んで腰かけた。
雨はすっかり止んで霞む夜空には名前も知らない星座が散らばっていた。
允の方から寄り道を提案されて純粋に嬉しいと感じていた槇哉に幼馴染みは告げる。
「二人でライブに行くの、これきりな」
槇哉は隣で足を伸ばして窮屈そうにブランコに座る允を見た。
「どっか出かけるのも、二人で飯食べんのも、今日で最後」
フェンスと生垣に囲まれた適度な広さの公園、前方にある鉄棒に視線を据えたまま、横顔に痛いくらい槇哉の視線を感じながら允は続ける。
「明後日からはもう俺に話しかけないで」
どうしてそんなひどいこと言うんだろう。
同じくらいひどいことを俺は允にしたんだろうか。
「允、俺は、前みたいに普通に允と話ができたらいいなって、」
「それが苦痛なんだよ」
もう昔と違うんだよ、マキちゃん。
「俺、めんどくさい、マキちゃんと話すの」
昔の思い出の中に置き去りにされた気分で槇哉が淋しさに打ちひしがれていたら。
允のハーパンのポケット内でスマホが振動を始めた。
取り出し、電話してきた相手を確認した允は、立ち上がった。
「それじゃあ、バイバイ、マキちゃん」
自分に背を向け、公園の出入り口に向かう傍ら電話に出ようとしている允の背中を槇哉は見つめた。
「出ないで」
外灯の明かりの中で允は思わず足を止める。
「勝手に一方的にバイバイとか、そっちこそ上から目線だよ」
「ッ……お前だって、マキちゃんだって、あの日いきなり勝手にーー……」
喉の奥からせり上がってきた本音を我慢できずに吐き出しそうになった允は目を見開かせた。
ギシギシと揺れたブランコ。
急に槇哉が立ち上がった反動で乱暴に薄闇を掻き回した。
幼馴染みに背中からきつく抱き締められた允は振動するスマホを草むらに取り落とした。
「めんどくさいとか、最後とか、お願いだからそんなこと言わないで」
ああ、本当だ。
確かに昔と違う。
ライブで隣に立つ幼馴染みを見たときに思ったんだ。
きれいだなって。
キスしたいって。
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