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SATURDAY,JUNE ☓☓ at ☓☓ PARK-12
月曜日、槇哉が登校してみれば、賑やかな教室にいつも先にいるはずの允の姿が席になかった。
「おはよ、むっちゃん、土曜のライブどうだった?」
いそいそやってきた三池と話をしていたら允はやってきた。
ブルーグリーンの半袖シャツ、グレー系でチェック柄のズボン、両耳にイヤホンをしてスクールバッグを肩に引っ掛けた幼馴染みは……どえらい凶悪な仏頂面をしていた。
呆気にとられていた槇哉をジロリと一瞥して彼は自分の席に着いた。
「むっちゃん、ライブで有原と殴り合いのケンカでもしたの?」
床に座り込んで机に両腕を乗っけていた三池に「まさか」と槇哉は答えた。
『マキちゃんの好きにしていい』
昨日の日曜は、允のおじさんおばさんが帰ってくる前に家を出た。
允はパンツ一丁で玄関まで見送ってくれて、キスして、別れた。
それからこの朝の間に何かあったんだろうか?
「マキちゃん、今度の土曜日って空いてるか」
体育の授業中だった。
ジメジメした体育館、允に背中を押してもらって準備運動の前屈ストレッチをしていた槇哉は何度も瞬きした。
厳しい体育教師が準備運動を怠けていた別の生徒を注意しているのを確認し、真後ろにいる允に返事をする。
「空いてる」
「その日、俺に時間くれる」
「デートってこと?」
ぎゅうぎゅう強めに背中を押されて槇哉は目を白黒させた。
「マキちゃんに会わせたらきれいさっぱり関係切ってやるって言われた……う、わ」
押す力を跳ね返して唐突に上半身をガバリと起こした槇哉に允はちょっと驚いた。
「交代」
Uネックの半袖、ネイビーのハーパンという体育着を涼しげに着る槇哉に腕を引っ張られて入れ代わり、前屈ストレッチを開始させられた。
「それって」
「会わせなきゃ付き纏うみたいに言われた」
「允、お前」
「説教やめろ、俺自身わかってるから、ヘマしたって」
小声で会話していた槇哉は允の背中に宛がう両手にぐっっっと力を込めた。
「ん……っ」
次の瞬間、咄嗟に手を離した。
「背中折れた……」
肩越しに涙目で睨んできた允に、槇哉の腹の底では色んな感情がせめぎ合った。
テキトーな関係って言っておきながら、それじゃあ済まされない事態じゃないのか。
相手から允のことを守らないと。
もしものときは俺が盾に。
そういえば、允は痛いのが割と好きだって、じゃあ今のこの反応はどっちなんだろう。
「もう休憩タイム突入か、お前ら」
準備運動の途中でフリーズしていた二人の元へいつの間にやら迫っていた体育教師、よって悪夢の再来、他のクラスメートよりもハードな体育の授業を過ごす羽目になった……。
「この三日間ハード過ぎて笑える」と、コンビニで購入した惣菜パンを食べながら允は言った。
「あー、有原、むっちゃんクンとライブ行ったんだっけ? かわいーコいた!?」
「ヤローばっかだよ、席にごはん粒飛ばすな、山谷」
自分の席で食べていた允は、前席のイスに座って購買のお弁当をがっついている山谷を注意した。
「有原とむっちゃん、またタグチンに目ぇつけられて俺らの倍動かされてたな」
允の席の斜め前に座ってパックジュースを飲んでいた三池は笑う。
「有原、昨日もハードだったんだ? どっか行ったの?」
「ある意味、昨日が色々とハードだった」
「なになに? カノジョと!? カノジョと!!??」
一人勝手に興奮している山谷をガン無視する允。
隣の席で母親お手製のお弁当を食べていた槇哉は素知らぬ顔でいた。
最近、昼休みになれば允の元へ槇哉が移動し、槇哉に三池がついてきて、オマケに山谷もやってきて、この面子でランチをとることが多かった。
「むっちゃんクンはっ!?」
「え?」
「鼻息荒いなぁ、山谷」
「また俺の席に飛ばしてる、きたな」
「昨日カノジョとデートしたの!?」
「会いはしたけど」
「いいなーーーー!!!!」
「デートじゃなくて、別れてきた」
「えーーーーーー!!!!」
イチイチ過剰に反応する山谷に三池は苦笑し、允は「うるさい」と耳にイヤホンをはめた。
「へぇ。でも、別れたんだ?」
「うん。報告遅くなってごめん、三池」
「いやいやいや。なんでそんな、気にせんで」
「なんで別れちゃったんだよ!! もったいな!!」
「その辺にしとけぇ、山谷」
「友達のコ紹介してほしかったのに!!」
槇哉は綺麗に食べ終えたランチボックスを片付けつつ、隣で俯きがちに音楽を聴いている允をチラリと見、目を見張らせた。
目許にかかる前髪越しに允は槇哉を見ていた。
向かい側で山谷と三池が言葉を交わしている中、頬杖を突き、こっそり意地悪な笑みを浮かべていた。
幼馴染みで、クラスメートで、それだけじゃあない、誰にも言えない特別な関係。
本日、ふとした瞬間に生じる校内の死角で実は三回、二人はキスしていた。
『学校では駄目だって』
『ん、もっかいしろ、マキちゃん』
『……』
違う、四回だった、強請ってくる允を突っ返すことができずに槇哉は風紀を乱す校則違反を度々犯していた。
『一回くらい学校でシてみたくない?』
雨の日が多い、肌身のベタつく季節。
体の芯にまで纏わりついてくるような湿気に無性に煽られることもある。
『先週と今週、同じようで全然違うんだな、俺達』
不意に下半身が狂おしくなる梅雨の最中に幼馴染みの誘惑、とんでもない中毒性に陥らないよう、ぐっと耐える槇哉なのだった。
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