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いぢめさせて平凡くん?-2
呆気にとられた晴樹は何度もパチパチ瞬きした。
内股になって両手で股間を隠し、壁ドン中の伍藤をおっかなびっくり見上げた。
「隠さないで見せてよ」
普段と大して変わらない大人びた声色で、落ち着いた表情で、伍藤は言う。
隠さないで見せるの、普通にむりですけど。
ていうか伍藤くん無駄に近いんですけど。
「恥ずかしい?」
「あ……うん、ハイ」
「でも似合ってるよ、晴樹」
明かりの点いていないトイレの薄暗い個室で。
全くもって履き慣れないラブリーな紐パンを渋々着用して。
無駄に接近してきたかと思えば「似合ってる」なんて抜かす伍藤に晴樹は超絶キョトン顔するしかなかった。
「あ、ありがとう……?」
とりあえず礼を述べれば伍藤は咄嗟に横を向いて吹き出した。
あ。
おれ、伍藤くんにからかわれてるんだ。
なーんだ……。
大人っぽくて親切な同級生だと思ってたけど、伍藤くんも、西條くんと変わらないってことか。
「もっとちゃんと見せて」
なかなか壁ドンを解除してくれない伍藤に晴樹は唇を尖らせる。
「見せてくれたら離れてあげる」
こんなの何がおもしろいんだろう、理解できない。
でも、スゥスゥして冷えてきたし、早く帰りたいし。
あーあ、仕方ない。
「……ハイ……」
晴樹は俯きがちになって股間を隠していた両手をぎこちなく退かした。
高校一年生のいたいけなブツを包み込む総レース紐パンティ。
貧弱な腰の両脇で雑に結ばれた紐リボン。
控え目に膨らんだピーチ色なフロント。
「ふぅん」
レンズ越しにまじまじと見下ろされて冷静な相槌まで打たれて晴樹の恥ずかしさは倍増、耐えられずに両手を股間へ戻そうとした。
「しゅ、終了~~、っ、えっ? あれっ?」
戻そうとした両手は股間へ到着する前に素早く壁に縫い止められた。
結構な力で手首を握り締められ、自由を奪われて、晴樹は大いに戸惑う。
「コレって西條の趣味かな、そもそも誰の?」
特に変化も見られない伍藤に普通に話しかけられて、驚きと痛みで「???」ながらも晴樹は何とか答えた。
「さ、西條くんの、えーと、女の子の友達からもらったって」
「ふぅん。それって晴樹的にはどうなの」
危機感など感じていないような、未だに「???」な様子の晴樹に伍藤は平然と続けた。
「ユーズドかもしれないし。女子が使ってた下着なんか履いたりして、興奮しないの」
「……」
着用するのに精一杯で、それまでまるで意識していなかったのに、実のところ性的経験に長けているクラスメートに指摘されて初心な晴樹は赤面した。
逆に今度はものすごく意識してしまう。
頼りない紐パンと優しく触れ合う場所がジンジンしてくるような。
やばい、これは危ない、意識を逸らさないと。
「……手首、痛い」
晴樹はまだ自分を捕まえている伍藤に懇願した。
「もう離してよ、伍藤くん」
「あと五分」
「ひ、ひどい、こんなからかい方、西條くんと変わらない」
「西條と?」
伍藤は心外とでも言いたげにわざとらしく目を見張らせる。
十分前まで、校内でダントツの人気を誇る英語♀教師と視聴覚室の暗闇で自堕落な放課後の逢瀬に耽っていた彼は、うるうる潤み出した奥二重の双眸を間近に見下ろした。
「あんなくそむかヤンキーと一緒にしないで? 縄張り意識が高めなボス気取りの、ただただ鬱陶しい雄野良猫みたいな、くそむか西條と」
「ご、ご、伍藤くん……?」
これまで伍藤の口から聞いたこともなかった悪口に圧倒されて、晴樹は、両手首を解放されても反応できずにいた。
「ほら、ここ座って」
促されるがまま再び洋式トイレの蓋に腰掛ける。
「はい、開いて」
「っ……??????」
が、しかし、両足をぱっかーん左右に開かれた際にはノーリアクションでいられずに小首を傾げまくった。
「え、えーーーと、恥ずかしいから、うん、恥ずかしいからっ」
大慌ての晴樹に反し、前屈みになった伍藤は剥き出しの両膝を掴んで固定し、紐パン股間を冷静に直視している。
「むりすぎっっ」
耐えられない晴樹は当然両手で股間を覆い隠した。
「ほんと、なにこれ……西條くんよりタチ悪いよ、伍藤くん」
「晴樹、見せて」
「っ……ど、どしたの、ほんと……からかうにも限度が……あるよね……? ね……?」
「別にからかってないよ、俺」
前から晴樹のこと可愛くて仕方なかった。
「はい?????」
窮屈なトイレの蓋上でジタバタしていた晴樹は一時停止に陥る。
それでも破廉恥な恥部を一生懸命隠そうとしている平凡クラスメートに伍藤はシニカルに笑いかけた。
「高校に入って、晴樹の前の席になって。プリントとか配るときに後ろを向いたら、毎回、前のめりになって律儀に待ち構えていて。絶対に余所見してることなんてなかった」
「それ、は……おれがよく西條くんに余所見されて困ることが多かったから、そうならないようにって……」
「たまに不意討ちで振り返ったら、慌てて反応して、エアプリント取ろうとしたりして」
「エアプリント……あ、エアギター的な……?」
「可愛いなぁって」
何かある度に「伍藤くんどうする?」「伍藤くんはどれにする?」「これでいいと思う、伍藤くん?」と縮こまってお伺いを立ててくる後ろのクラスメート。
即決できずに、自分を頼って、同意を欲してくる優柔不断な平凡男子。
次第に、密かに、伍藤はある感情を抱くようになっていった……。
「いじめたいなぁって」
「はいっ? イジメっ? えぇぇえっ!? あっ、ちょっ、これ以上足開かないでっ、おれ体かたいからっ、いたたっ、むりむりむりむりっ、んぶっ?」
無慈悲な開脚を強行されようとして悲鳴を上げていた晴樹の唇が掌に塞がれた。
驚きで限界いっぱいまで見開かれた目。
そんな怯える目を愉しげに覗き込んだ一重の冷たげな双眸。
「初めてだよ」
こんなイライラするダメダメ同級生は初めてって……こと?
「見てるだけでこうなるの」
あ。
当たって。
お、お尻に、ご、ごごご、伍藤くんの伍藤くんが、しかもただの伍藤くんじゃない、おっきくなったっぽい伍藤くんが、あああああ、当たって……!!!!
口を塞がれたまま成す術もなく混乱している晴樹に伍藤は……舌舐めずりした。
え。
おれ、今から伍藤くんに食べられる……の?
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