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リバって愛して/バスケ部×元バスケ部
■別シリーズのキャラと同名のキャラが登場しますが相互関係はありません
「それでは羽目を外し過ぎないよう健全な夏休みを過ごすように」
一学期最後の「起立・礼」が終わった。
駆け足で教室を出ていく生徒もいればその場でおしゃべりを始める生徒もいて、十代男女のハイなテンションから羽目を外す気満々でいるのが容易に窺い知れる。
割と普段通りの緒方 は教室を去っていくクラスメートと適当に挨拶を交わしつつ、登校時に買って温くなった炭酸を立ったままガブ飲みして、
「緒方!!」
廊下で待機していた中学からの友達である佐藤に抱きつかれて危うく炭酸を噴き出しそうになった。
「アイツの話長すぎー!」
背中にハイテンションでぶら下がる佐藤を睨もうと振り返れば仲のいいグループの面子が揃っていた。
「阿南、部活ねぇの?」
「阿南は今日バスケ休みだって! だからみんなで映画行こー!」
それぞれクラスが違う同級生らは一番帰りのHRが長引いた緒方の教室前で、この後の予定について話し合っていたらしい。
「どっかでラーメン食べて映画!」
「ラーメン限定かよ、カレー食いてぇ」
「私達、何でもいいよ」
行動派の緒方と佐藤にいつも任せっきりの三里 は前下がりボブの黒髪をさらりと流して眼鏡をかけ直す。
その隣で先程から一言も発していないバスケ部の阿南 。
怒っているわけじゃあない、普段からいつもこうなのだ、口数が極端に少ない。
「じゃあカレーラーメン食べる!」
緒方と佐藤は中学が同じだった。
阿南と三里も中学が同じだった。
去年、四人は同じ高校に進学し、緒方と阿南が同じクラスになって、何となくこのメンバーで一緒に昼を食べたり学校行事を過ごすことが定着し、今では休日にも遊ぶほどの仲になった。
「カレーラーメンうま!」
「普通のカレーの方が絶対うまいだろ」
「はー? じゃあ食べてみてよ! 絶対こっちのがうまいし!?」
「汁飛ばすんじゃねぇよ」
ムードメーカーの佐藤にリーダー的存在な緒方、佐藤が汚したテーブルをおしぼりで拭いている縁の下の力持ち的な阿南に、マイペースの三里。
「アクション観てぇ」
「時間ビミョーだよ!?」
「これなら丁度いいみたい、十分後に始まるし席も空いてる」
このままこんな関係が続くのかと思っていた。
居心地のいい、楽しい、無邪気な時間がずっと流れていくと。
「めちゃくちゃホラーじゃん、ひーー!」
「佐藤うるせぇ」
R15のスプラッタホラーを中央最後尾で観賞した四人。
緒方、佐藤、三里、阿南の順で着席し、佐藤は隣の緒方にヒィヒィしがみつき、流血過多なシーンで三里は平然とドリンクを飲んでいた。
シュシュが外れるほどに全力で驚いてヒィヒィしている佐藤を呆れ気味に見下ろし、そして、緒方はちらりと彼に視線を向けた。
華奢な女子二人を挟んで座る阿南の方に。
『バスケ、見学行こう、緒方』
新学期の教室で初めて話しかけてきたクラスメートは阿南だった。
中学時にバスケ部所属で対戦したことがあった緒方も当然入部するだろうと、そう思って、部活見学に誘ってきたらしい。
『俺、もうバスケはやめた』
『……』
阿南は肘掛に片肘を突いて映画を観ていた。
時々、三里に無言でドリンクを傾けられると何の躊躇もなく受け取って甘めのアイスティーを飲んでいた。
自分にしがみついてブルブルしている佐藤越しにまるで恋人同士に見える友達二人を見、緒方は、誰にも聞こえないため息をついた。
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