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リバって愛して-9

緒方は大学一年生になった。 現在、大学近くのアパートで一人暮らしをしている。 そろそろバイトでも始めようか、そんな心の余裕が出てきた頃に。 「緒方んち、私んちよりキレーなんだけど! なんで!?」 「お邪魔します、緒方君」 三連休、今はそれぞれ別々の大学に通っている佐藤と三里が遠方から遊びにやってきた。 「おら、バカみてぇに食うお前のために大量買いしてやったぞ」 夕方六時前からホットプレートで焼肉をジュージューし始める、今日会うことは一ヶ月程前から約束していた、佐藤も実家を出て地方の女子大に通っており、三里は実家暮らし、緒方の住む界隈がまぁまぁ中間地点ということで卒業以来に会う場所として今回選ばれた。 「お前等ホテルとったんだよな」 「うんっ。三里とツインでビジネス。こっから電車で二十分くらいのとこ」 「別に泊まってもよかったんだぞ」 「え!やだ!」 思いっきり拒みやがった佐藤の頭をグリグリする緒方。 「阿南君、間に合わないかな」 タレにもつけずに焼肉を食べている、食に関心のない三里がポツリと言った。 阿南も本来なら今この焼肉晩餐に同席しているはずだった。 だが、急にバイトが入ってしまい、遅れるとのことで。 「多分、無理だ。仕方ねぇな」 緒方はそう答えて白飯をかっ込んだ。 夜十時になった。 「阿南君、後三十分くらいで着きそうだって」 「そろそろホテル戻ろっか、三里!」 「え、もう?」 「戻ろ! もーどーろ!」 「でも阿南君と会ってない」 「明日会えるし! お腹いっぱいだし、早くお風呂入って寝たい!」 「うん。わかった」 阿南が到着するより前に佐藤と三里はホテルへ戻って行った。 「明日、一時くらいに来るね~おやすみ~!」 駅まで送った緒方は一人苦笑した。 佐藤は気の遣い方が露骨だ、と。 ようやく馴染みつつある、しかし路地裏など知らない道はまだたくさんある街。 ふとした瞬間、新鮮に感じられる空気を吸い込んで、常夜灯の下を大股で歩く。 三十分か。 風呂、どうすっかな。 つぅか相当焼肉くせぇぞ、部屋、換気しとくか? アイツはそんなん気にするタイプじゃねぇか。 恐らく佐藤と三里が乗っているだろう電車を遮断機越しに眺め、線路を越え、郵便局、コンビニ、シャッターの下りたドラッグストアやスーパーの前を通り過ぎて。 角を曲がって、コインパーキングの隣、六階建てのアパートへ。 一段飛ばしで階段を上って三階角部屋に向かおうとした緒方はぎょっとした。 「阿南かよ?」

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