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リバって愛して-10

「……緒方か」 「何だよ、お前、三十分後に着くんじゃなかったのか」 「……三分後だ」 自分の部屋の前に突っ立っていた阿南の元へ緒方は辿り着いた。 「よく俺らと擦れ違わなかったな。どんなルートで来たんだ?」 現在、阿南は将来の第一希望に掲げる体育教師になるため体育大学に通っていた。 緒方より少しばかり伸びた身長。 一度も色をいれたことがないスッキリ短髪で服も単色シンプルなものばかり。 「……高速バスを降りて、適当に来た」 飾り気がなくとも素質が優れているから少しも見劣りしていない。 「メール打ち間違えたのか?」 それは緒方にも言えることだった。 「お前たまに変換ミスで変な文章送ってくるもんな」 鍵を外し、先に阿南を中へ促し、ロックする。 一端、外に出、佐藤と三里が後片付けしれくれたにも関わらず室内にこもっている焼肉臭が鼻につき、緒方は苦笑した。 「ちょっと窓開けるか、コレ、くさ過ぎんだろ」 こざっぱりとしたワンルーム、スニーカーを脱いで足早に奥へ向かおうとした住人の腕を阿南は咄嗟に掴んだ。 「……いい匂いだ、緒方」 決して華奢とは言えない、むしろしっかりした骨格で男らしい緒方を後ろから羽交い絞めするように抱きしめた。 高校時代よりも太くなった両腕に捕らわれて緒方はほんの一瞬、息を呑む。 まだ玄関の明かりしか点いていない薄暗いワンルームで二人の体温が密に重なった。 「いや……どう考えてもコレはくせぇだろ」 佐藤や三里と同じ、阿南に会うのは卒業以来だった。 だからだろうか。 否応なしに胸が騒ぐ。 心臓の鼓動がやたら大きく鳴り響くような。 「……俺はいい匂いだと思う」 振り向けずにいる緒方の耳元で阿南は淡々と呟いた。 「お前の匂い、久し振りだ」 何を抜かしてるんだ、このバカは。 「あのなぁ、台詞までくさくしてんじゃ、」 阿南は強引に顔の向きを変えて喋っている途中だった緒方の唇を塞いだ。 緒方からすると少々キツイ体勢であったが構っていられる余裕はなく。 「ん……ッぅ!」 ただがむしゃらにキスした。 枷が外れて好き勝手に溢れ出る欲望に忠実となって緒方の口内を荒らした。 色味の浅い唇が互いの唾液で一瞬にして濡れた。 舌先どころか吐息まで縺れるような。 「息……ッできねぇだろぉがッ」 五分後、ウォームアップでもやった後さながらに呼吸を乱した緒方に睨まれた阿南。 それでも彼の欲望は止まらない。 「……わざとだ」 「は?」 「三十分、そう打ったのは、わざとだ、緒方」 確信犯か、コイツ。 「強姦魔みてぇな真似しやがって」 「……緒方はシたくないのか」 そう問いかけた阿南の股間はすでに十分なまでの火照りを帯びていた。 デニム越しに尻に触れたその感触に思わずゴクリと鳴る緒方の喉。 「順序ってモンがあんだろ」 「シたい」 「俺に会って早々盛るんじゃねぇ」 「……緒方、頼むから」 緒方の片手をとった阿南は何の迷いもなく自身のブツを触らせた。 デニムの向こうで猛然と息づく昂ぶり。 恥ずかしげもなく自らも掌に押しつけてその切羽詰まった緊急事態を伝える。 余りの早急ぶりに些か動じている緒方にも阿南は触れてきた。 バスケットボールを片手で軽々と掴むことのできる大きな手で股間をすっぽりと包み込み、擦り上げるように強めの愛撫を施す。 遠距離恋愛なんてドラマもしくはマンガじみていて正直やってらんねぇと思っていた緒方。 でも仕方がなかった、実際、離れるのだから。 別れるという選択肢なんてなかったから。 「……お前の、もう硬くなった」 「ぅ、く……ッテメェ勝手過ぎんぞッ阿南ッ、ッッ、ッ!」 阿南はさらに勝手な振舞に出た。 緒方の体の向きをぐるりと乱暴に変えて向かい合わせにし、再び荒々しいキスに身を投じて、同時に両手で尻をまさぐってきた。 引き締まった尻を揉み回されて、密着した正面において股間に股間を押しつけられて、緒方は思わず目を閉じた。 押し寄せてくる快感に身を委ねたくなる。 自分の中身ごとめちゃくちゃにされたくなる。 「緒方……ッ」 自分と同様にすでに息を荒げている阿南に名前を呼ばれて鼓膜まで発情しそうだ。 自らも腰を揺すってデニム越しの摩擦を強めてしまう。 「……お前ケダモノくせぇよ、阿南……」 濡れた唇を歪めて半笑いした緒方に阿南の<待て>は限界を迎えた……。

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