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しょたヤンで何が悪ぃ?-3
「ここがセンセェんち」
まさか。
本当にシマ先生のおうちに招待されるなんて思ってもみなかったミサキは繁々と室内を見回した。
繁華街から徒歩三十分以内で到着した三階建てマンション上階の角部屋。
間取りは2LDK。
最低限の家具のみ置かれているリビングはその分ゆったりしていた。
玄関から近い洋室は、了解もとらずにドアを開いてみればパソコンデスクや本棚が並んでいた、どうやら仕事部屋のようだ。
「ミサキ、手洗いとうがい」
手洗い、うがいを先に済ませたシマ先生はリビングと隣接する和室に進んだ。
布団を敷き始めた担任にミサキは吊り目と唇をこれみよがしに尖らせる。
「センセイ、まだ十時前だぞ。しかも金曜なのに、もう寝んのかよ」
おうち訪問に内心ワクワクしながらも、もう寝る準備を始めたのかと、機嫌を損ねていたら。
畳の上に敷布団と枕をセットしたシマ先生は居場所に迷って突っ立っているミサキの真ん前にやってきた。
「性教育、実践してほしいんだろ」
え。
「その前に、お父さんに連絡しなきゃな」
「え、あ、オヤジは仕事だし、電話しても出ねーから」
「留守電に残しておく。夜間に街を彷徨っていた息子さんを保護してます、一日預かりますって」
「オレはノラ猫か!!」
父子家庭であるミサキは毛を逆立てて威嚇する野良猫みたいに肩をいからせた。
それから言われた通りに洗面所で手洗い、うがいをし、何となく鏡に写る自分を見た。
「私、ミサキくんの担任をしております、シマと申します……」
電話をしているシマ先生の声が聞こえてくる。
タオルや洗剤などが整理整頓された洗面所を繁々と見回し、また、鏡の中の自分をぼんやり見た。
え?
なにこれ?
これって現実?
夢とかじゃないよなー?
「性教育……」
どっくん、どっくん、心臓が荒ぶり出した。
体中、どこもかしこも熱くなった。
頭の奥が痺れるみたいにツーンとなった。
「ミサキ」
洗面台の前で棒立ちになっていたミサキの元へシマ先生がやってきた。
過剰にビクリとし、おっかなびっくり目線をやれば、両腕を組んだシマ先生は首を傾げるようにして教え子の顔を覗き込んできた。
「別に健全なお泊まりでもいいよ」
「え」
「お前が怖いのなら無理強いしない」
そんなことを言われて。
より一層、全身をポカポカ熱くさせて、ミサキはムキになって言い返した。
「怖くねーもん!!!!」
シマ先生は小さく笑った。
「じゃあ、おいで、お前にだけ特別に教えてやる」
ーー誰にもナイショだからな。
ずっとこっそりなりたがっていたシマ先生の特別。
蜜の味がするような秘密の共有。
自ら同罪を欲したミサキは素直にコクンと頷いた。
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