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求愛フラストレーション-5
「で、あの転校生はどんな感じなんだ」
「幸太、後ろの席だから、イジメられたりしてない?」
「してないしてない、イジメなんかいっこもない」
始業式の後、幸太は大和・真希生と最寄りのファストフード店に寄り道していた。
「ソースついてるぞ、幸太」
「俺のナゲットあげる、幸太」
幸太に始終構いっぱなしの大和・真希生。
慣れっこながらも幸太は内心苦笑する。
(嫌がってもやめないから、抵抗するのも面倒くさくて、放置してるけど)
大和は、もっと彼女に構ってあげるべきなんじゃ?
真希生は、そろそろ彼女つくってもいいんでない?
「大和さ、春休みはチホちゃんとどこか行った?」
「チホ……?」
「おいっ、自分の彼女の名前忘れるなっ」
「ああ、千帆か。別れた」
「は? また? もう?」
七人目の恋人と別れたと聞かされて幸太は呆れ返る。
すっきり短め黒髪の大和は、レモンライムフレーバーが香る炭酸ジュースを飲んで、肩を竦めてみせた。
「部活で会えなくなったら、飽きられて、自然消滅。もうすっかりパターン化した」
……はぁ、そんなもんかねぇ。
……大和と一緒にいるとき、みんなすごく楽しそうだったけどなぁ。
「真希生は?」
「うん? なに、幸太?」
アイスティーを飲んでいた真希生はゆっくりと首を傾げてみせた。
「安定の週一ペースで告白されてるけど、彼女、つくらないのか?」
「うん。今はまだいいかな」
「今はまだいいって、じゃあ、いつならいいんだよ?」
端整な唇を一瞬閉ざしてから「大学生になってから、かな」と真希生は微笑まじりに答えた。
「中学のときは高校生になってからって、真希生、そう言ってたよな」
「嬉しい」
「え? 急にどした?」
「俺が言ったこと、幸太が覚えてくれてるなんて、幸せ」
(言い過ぎで草……)
利用するバス停近くのファストフード店から歩いて帰宅した三人。
「おい、あれって」
「転校生くん?」
自分達が暮らす住宅街で朔也とバッタリ会って驚いた。
「ほんとだ、朔也くんだ」
制服姿の朔也には連れがいた。
小学生と思しき女の子の手を引いている。
そして片方の腕には黒猫を抱いていた。
(幼女と猫の同時誘拐……)
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