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求愛フラストレーション-11

ただただキョトンとしている幸太の髪をそっと撫で、真希生は、緩やかに微笑んだ。 「猫の毛がついてたよ」 「あ、ほんとに? 取ってくれてありがとな」 カーディガンを腕捲りした真希生に髪を撫でられ続けて。 幸太のキョトンは益々深まる。 「ひじきの毛、そんなに俺の頭にくっついてる? どっちも黒いのによくわかるな」 「猫よりも幸太の頭、撫でたくなる」 (まーた意味不明なこと言ってるよ) 「幸太、真希生」 部活帰りの大和に声をかけられて幸太は目を丸くした。 「あれ、いつもより早くない?」 「練習中、怪我人が出て、顧問が病院へ連れて行った」 「えっ、大丈夫?」 「去年も一回あったし、大丈夫だ。二人は公園で砂山でもつくってたのか?」 「懐かしいね。三人でよく作った。トンネルもたくさん掘ったね」 「あー……必ずおれのときに崩れちゃうんだよな」 「砂のトンネルで幸太と手を繋いだとき、どきどきした」 「確かに。あの瞬間はテンション上がったな。その後、幸太に大概崩されたけど」 スポーツブランドのショルダーバッグを肩に引っ掻けた、長袖シャツを腕捲りした大和に真希生は教える。 「中邑くんの家にお邪魔してたんだよ」 「……へぇ」 「幸太が猫を見たいって、言って聞かなくて」 「そんな、ひとを子どもみたいに」 「実際、そうだったよね?」 「まー、ひじきはかわい……、……真希生、何してるのか聞いてもいーか?」 幸太は戸惑う。 屈んだ真希生が首筋に顔を近づけてきたかと思うと、スンスン、鼻を鳴らしている気配が……。 「なんでおれの匂い嗅いでんの?」 「猫の匂いが残っていないかどうか、確認中」 「ね、猫の匂い?」 「触発されてアレルギー起こしたら、おばさんが可哀想だから」 「だから、そこまで深刻じゃあ……っ……くすぐったい……!」 (真希生の奴、やっぱり変だ) 「クラスが分かれたからって、いくらなんでもやりすぎだぞ」 これ以上嗅がれないよう両手で首を庇って、そう言えば。 急に真顔になった真希生に一心に見下ろされて幸太は動じてしまう。 「おれと分かれて、さ、淋しいからって……」 (あれ、なんか自分で言っててハズイ、これって自意識過剰の極み……?) 「そうだよ」 数多の女子から「優しい美形」として憧れの的になっている真希生はにこやかに続ける。 「幸太とクラスが分かれて、淋しくて、ついついこんなことしちゃうんだ」 (からかわれているのか、本気なのか、うーん、わからない……) 「んなぁ」 甘えたな黒猫を片腕に抱いた朔也は、自分の部屋の窓辺から、幼馴染み二人に挟まれた幸太を見下ろしていた。

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