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求愛フラストレーション-12
「最近の真希生、なんか変じゃない?」
「変? どう変なんだ?」
「うーん。なんか、やたら甘えたがりっていうか」
そこは大和の部屋だった。
日曜日の午後、峯宅にお邪魔した幸太はベッドに腰掛けてクッションを抱っこしていた。
「クラスが分かれて淋しいって、真希生、言ってなかったか?」
「それ、ガチだと思う?」
「ガチじゃないのなら、うそってことか? どうしてうそつく必要がある?」
(ほんそれ……)
「幸太一人でウチに来るのは久し振りだな」
五分袖のシャツを着、筋張った腕が男っぽい大和はワークデスク前の回転イスに腰掛けた。
(おれは小学生からずっと同じ学習机だけど、大和のは買い替えてる、シンプルで大人っぽくてかっこいい)
去年買ったノートパソコンも、インテリアも照明器具も、大和が自分で選んでる。
服だってちょっと高いお店で買ってる。
おれなんかお母さんがイ●ンで買ってきたの普通に着るけど、自分で買うにしてもイオ●ですけど。
「気にしすぎなんじゃないのか?」
「いや、まったくもってその通りなんですけど」
「何か引っかかるのか」
「……真希生さ、朔也くんのこと苦手なのかな」
「中邑を苦手な奴は珍しくないだろ」
幸太はびっくりした。
「や、大和までそんなこと言うなよ」
みんなに頼られるリーダー、誰にも平等、部活では下級生に慕われて上級生から一目おかれている大和が。
眉間に縦皺を寄せ、吐き捨てるように言うものだから、幸太はショックを受けた。
「……ああ、悪い、幸太は中邑のお世話係だもんな」
ペットボトルの炭酸水を飲み干した後、大和が呟いた言葉に幸太は口を尖らせる。
「今はもう、お世話係っていう意識ないよ、ただのふつうの友達だよ」
雨降りの日曜日。
窓の外では規則的な雨音がしていた。
「幸太はよくできたイイコだな」
隣に移動してきたかと思えば、大和に頭を撫でられて、幸太はさらにむすっとした。
「タメのくせに。年上ヅラするな」
そうは言いつつも、しっかり者の大和をどこか兄っぽく感じている節もある、ひとりっこの幸太。
「今日はビスケット持ってないのか?」
「っ……いつの話してんだよ」
「あのときみたいにポケットに入ってないのか」
「ひっ……くすぐったいって……!」
ハーフパンツのポケットに片手を突っ込み、ゴソゴソやり出した大和に幸太はヒィヒィする。
「よいしょ」
「う、わ? なんだよ、大和……?」
そのまま背中から抱きつき、大和は自分よりも華奢な体を巻き込んでベッドに寝そべった。
「今日ちょっと冷えてるし。抱き枕代行、頼む」
「は~?」
「人肌が丁度いい」
「ッ……そんなん彼女にやってもらえ!」
「今いないの知ってるだろ」
頑丈な腕が柔らか味のない上半身にしっかり絡みつく。
貧相な背中に厚い胸がぴたりと密着した。
「おい、大和……」
「幸太、温いな」
「重たいってば……」
「寝そう」
「あのなぁッ……」
抱き枕扱いされたことなんて今まで一度もない。
幼馴染みが及んだ初スキンシップに幸太はやっぱり戸惑ってしまう。
(変だ、いつの間にか大和もおかしくなってる……)
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