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求愛フラストレーション-14
休み時間のことだった。
視聴覚室から自分の教室へ戻ろうとしていたら、目の前を歩いていた同じクラスの女子が急にふらふらと廊下の隅に倒れ込み、幸太はぎょっとした。
「えっ、大丈夫!? どうしたの!?」
彼女の友達がしゃがみ込んで心配している。
幸太もその隣に並び、蹲って青ざめているクラスメートに声をかけた。
「船井さん、大丈夫!?」
「……」
「貧血かなっ?」
「そ、そーかも、さっきの授業も具合悪そうだったし」
「先生呼ばなきゃ、それから担架も、保健室に……っじゃない、担架は職員室にもあるから、おれっ、行ってくる!」
廊下にいた生徒がざわつき出す。
教室からも同級生が何事かと顔を覗かせていた。
大慌てで職員室へ向かおうとした幸太は。
「俺が保健室まで運ぶ」
足早にやってきた真希生と擦れ違った。
「あ、真希生ーー」
振り返れば、貧血を起こしたクラスメートを真希生が抱き上げるところだった。
「一先ず保健室に連れていく、先生たちに伝えておいて」
彼女の友達にそれだけ告げて速やかにフロアを去っていく。
女子のみならず多くの同級生の感嘆を背中に浴びながら……。
「今のは男でも惚れ惚れする」
「優しい……あの優しさに包まれたい」
「手際いいよな、判断力がパない」
(……よかった)
職員室に行って、先生を呼んで、担架を持ってくるまでのロスが省けた。
モタモタしてるおれと違って真希生はすごい……。
「……うん?」
肩にポンと手を置かれて幸太は顔を上げた。
「……幸太、えらかった」
背後に立っていた朔也の言葉に、ぱちくり見開かれた奥二重の目。
「……全然えらくない、ただオロオロしてただけ」
幸太が苦笑いを浮かべれば朔也は首を左右に振った。
「……下手に移動させたり、揺らしたりしたら、危険なケースもあんの」
「あ……」
「二階の職員室から、センセーを呼んでくるのが、一番の正解」
「……そーかな」
「……保健室よりも近い、担架の置き場所をちゃんと知ってるの、えらい」
(なんか……もしかして……?)
おれのこと励ましてくれてるのかな。
朔也くんが一度にこんないっぱい喋ってくれたの、初めてだ。
「朔也くん、ありがと」
幸太が照れくさそうに言えば、ぷいっと顔を背け、朔也は教室へ戻っていった。
(ほんとにありがとう)
廊下でざわついていた生徒も各教室へ戻っていく。
幸太も、テキストやノートを抱え直し、独りでに緩みそうになる唇をきゅっと結んで朔也の後を追いかけた。
「……幸太」
隣の教室から廊下へ出てきていた大和は。
見覚えのない表情を浮かべた幼馴染みの横顔が、視界から消えても尚、瞼の裏に焼きついて離れずに。
密やかに舌打ちした……。
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