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求愛フラストレーション-15

「お兄ちゃんが学園祭仮装コンのクラス代表ですかっ!!」 十月下旬、中間テストが終わった記念に幸太は中邑宅へひじきを愛でにきていた。 「そうだよ、男子枠で出るんだ」 「それはっ、どういうイキサツで決まったんですかっ」 小学校が終わって家にいた朔也の妹・小春に幸太は笑いかける。 「投票で決まったんだよ、すごくない?」 「すごいですっ」 「ていうか、九月でもう決まってたんだけど、小春ちゃんに言ってなかったんだ?」 床に敷かれた毛足短めのラグに座り込み、小春と向かい合っていた幸太はベッドに目を向けた。 「……絶対、出ない」 「お兄ちゃん、なんの仮装するのっ?」 「……だから、出ないって」 「んなぁ~」 制服のまま仰向けになった朔也のお腹にはひじきが乗っかっていた。 御主人様が喋るとお腹が振動し、その度に短く鳴いていた。 (いいなー、おれのお腹にも乗ってほしい) 「朔也くん、せっかく選ばれたんだし、学園祭さぼっちゃ駄目だからな?」 最初はみんな遠巻きにしがちだったけど。 今でも素っ気ないけど、無愛想だけど、遅刻さぼり居眠り常習犯だけど、たまーーーに見せる朔也くんの優しさに、みんな気づいちゃったかー。 「幸太のばーか……あんぽんたん……ぽんこつ」 (あれ? なかなかなディスられよう?) 「ひじきは寝てるのか?」 幸太はベッドに俯せて腕を伸ばした。 ひじきのツヤツヤな黒い毛並みをそっと撫でる。 「……半分、寝てる」 「グルグル言ってる、かわいいなぁ」 「……ひじが好きなの、ここ」 「え?」 「ここ、撫でられるのが好き」 尻尾の付け根辺りを掌でポンポンしてみせた朔也。 「グルルルル」 「ほんとだ、ゴロゴロ言ってる」 幸太は顔を輝かせた。 「この辺?」 指先でトントン小突いてみる。 「ここ」 朔也は幸太の手をとった。 黒猫の至福ポイントへ導いてやる。 「これくらい、ポンポンしていい」 骨張った色白な手を上から重ねてポンポンと叩かせてやる。 「んなぁ~~」 「ほら」 「あ、うん、ほんとだ……」 (朔也くんの手、冷たい) なかなか強めにひじきのおけつをポンポンしつつ、幸太は遠慮がちに朔也の顔へ視線をやった。 相変わらず長いパツキン前髪。 その向こうで、すでに幸太に視線を注いでいた切れ長な双眸。 「俺のことも前みたいに撫でたい?」 幸太は……まっかになった。 「幸太くんっ、お兄ちゃんの頭っ、撫でてもいいですよっ」 「いやいや、あれは春の陽気でついうっかり……遠慮しときます……」 「んあぁぁあ゛~~」 「おかえり、幸太」 二時間ほど中邑家で過ごして帰宅してみれば、家の前で姿勢正しく立つ真希生に幸太は出迎えられた。

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