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求愛フラストレーション-16
両親が共働きの幸太は慌てて鍵を開け、二階の自室へ制服姿の真希生を招いた。
「メールしてくれたらよかったのに! どれくらい待ったんだよ?」
「三十分くらいかな」
(真希生、用事があるって言ってなかったっけ)
いつものように、今日から部活が始まった大和を抜きにして、幸太は真希生・朔也と三人で帰ってきた。
『俺は用事があるから』
中邑宅へ一緒に行くのを断られていた幸太は、こっそり、肩を落とす。
(苦手っていうより、真希生は朔也くんのことが嫌いなんだな)
もう小学生じゃないんだし、みんなで一緒に仲よくする必要……ないか。
むりして付き合わせることもない。
負担になりかねないしな……。
「ねぇ、幸太」
(でも、なんで嫌いなんだろう?)
「幸太は俺のこと応援してくれるよね?」
女性じみた質感に富む両手で顔を挟み込まれた。
また始まった、幸太はそう思う。
「仮装コンのことか?」
「うん」
真希生はダントツの投票数を獲得し、隣クラスの男子代表に選ばれていた。
「そりゃー、真希生のことも応援したいけど、やっぱり自分のクラスに勝ってほしいというか」
(これ言うの何回目だろうな)
「俺より中邑くんに勝ってほしいの? 俺が勝ったら嫌……?」
(最近の真希生、なんか幼児化してないか……?)
真希生の手はやっぱりあったかい。
朔也くんの手は冷たかった。
こんな風にしっとりもしてなくて、掌は薄くて、でも指は長くて。
自分の手にヒンヤリしみるみたいな……。
「顔赤い」
真希生に指摘されて、幸太は、さらに赤面してしまった。
(真希生と朔也くんを比べて顔赤くなるって、意味わからないの極み……!)
「ッ……痛い、真希生、爪立てるなって」
「中邑くんの飼い猫だって爪くらい立てるよね」
「ひじきは……まぁ、稀に……」
「幸太、猫くさい」
「っ……くさくないって」
「おばさんが可哀想」
「あのなー……」
不安そうに揺らぐビー玉を幸太は困り顔で見上げる。
「ひょっとして、夏休みのこと、まだ根に持ってるのか?」
「持ってる」
即答され、ほとほと困り果てた。
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