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求愛フラストレーション-18

「真希生、化粧してるのか?」 「うん、ちょっとだけ。企画のひとにされたんだ」 「その格好って……吸血鬼だよな?」 「うん。企画のひとが用意してくれた」 フリルのついたドレスシャツに金ボタンの黒チョッキ。 丈の長いマントの裏地は鮮やかな深紅。 重厚な艶を擁するエナメルのショートブーツ。 ふわふわの黒いネコミミは女子信者のハートを連続射貫きまくっていた。 自然なメークを施された顔はいつにもまして甘やかな魅力を放っている。 太陽をも克服して青空の元を闊歩しそうな陽の雰囲気は好印象極まりなかった。 「かっこいいよ、すごく似合ってる……でも」 「でも? なに?」 幸太の微妙なリアクションに真希生は首を傾げた。 幸太のクラスの出し物はビンゴ大会だった、午前と午後、デコレーションに力を入れた教室で二回ずつ開催する。 先程、午前の部の二回目が終わったところで、午後のメイン・イベントである仮装コンに向けて準備を始めている真っ最中だった。 「あ~、このキリッとした目にアイライン引きたいよ~っ」 「……絶対、引くな」 「色白っ、ニキビ皆無っ、ねぇねぇ、さわってい? ほっぺたさわってい?」 「……絶対、さわんな」 企画委員とは別の、自ら志願してくれた衣装係の女子らが教室隅っこで朔也を取り巻いていた。 シルクハットから食み出したパツキン前髪。 ほつれや裂け目などのダメージ加工を敢えて施した燕尾服。 ストライプ柄のリボンタイ、懐中時計のチェーンがシックなアクセントになっている。 小道具のステッキがこれまたこじゃれている……。 「衣装、やたら力入ってないか? 予算に余裕あるんだな」 真希生と共に教室を訪れた大和に問われ、幸太は首を左右に振る。 「余裕なんかないよ、あれ、ほとんど衣装係の手作り」 「手作りなのか。すごいな」 「コスプレが趣味みたいで、さくさく作ってくれたんだ。ステッキとかは私物だし」 「もしかして中邑も吸血鬼……か?」 (そーなんです、まるかぶり、です) ほとんどのクラスが仮装コンには力を入れている。 下手したら各自の出し物よりもヤル気を出す。 よって本番当日まで代表の男女二人がどんな仮装をするのか、極秘情報扱いだったりする。 おかげで衣装合わせのときは他のクラスに見られないようピリピリムードだ。 (そのおかげで、ときどき、こんな風にかぶっちゃうんですよねー……)

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