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求愛フラストレーション-21
「俺にはビスケットないの」
午後の柔らかな日差しが差し込む階段の踊り場で幸太はかたまっていた。
「なんで中邑くんとはんぶんこしちゃうの?」
(真希生、泣いてる……?)
学園祭閉幕まで残り一時間を切っていた。
来場客はちらほらと減り始め、ピーク時と比べて校内の喧騒は大分落ち着きつつあった。
「えっ!」
「なにあれっ」
まだ学園祭を楽しんでいた客が階段の踊り場にいた幸太たちを見つけるなり、赤面して回れ右、慌てて走り去っていく。
「ま、真希生、とりあえず一旦離れよーな?」
真希生に壁ドンされ中の幸太は慌てふためいた。
「あれっ、動かない……!」
ネコミミとマントを外し、後は仮装したままの格好でいる真希生を押し返そうとしたものの、微動だにせず。
女子ならば歓喜ものだろう両手壁ドン、だが幼馴染みの幸太からしてみれば困惑するばかりで。
「おれさ、ビンゴ大会の係だから行かなきゃなんだって!」
本日ラストのビンゴ大会の進行係を任されているため大いに焦っていた。
「行ったらだめ」
「もっ……もぉ~~っ……なぁ、大和からも何とか言ってくれよ~~!?」
すぐそばで静観していた大和に幸太は情けない顔で助けを求める。
「……」
ネイビーのセーターを腕捲りし、両腕を組んだ大和は数秒間沈黙した。
「真希生」
もたれていた壁からすっと身を起こすと大股で歩み寄り、壁ドンを頑なに解除しようとしない真希生の肩に片手を置いた。
「……?……」
何やらボソボソと耳打ちする。
職務放棄になりかねないと気が気でないながらも幸太は首を傾げた。
「あ」
やっと真希生が離れてくれたので一安心する。
すでにビンゴ大会開始の時刻は過ぎており、大慌てで自分の教室へ向かおうとした、ら。
「ッ……大和?」
片腕を掴んで引き留めてきた大和を呆然と見上げた。
「幸太、ちょっと話がある」
「後で! 後にして! 早く行かなきゃーー」
「大事な話なんだ」
自分の腕を掴む手の力が増して幸太は眉根を寄せる。
「係は他にも何人かいるだろ?」
「もちろん、いるけどさ……」
(朔也くんとか……)
「どうしても今聞いてほしいんだ」
「えぇぇえ……でも……」
「後で俺からお前のとこの企画に説明する」
大和の真剣な面持ちに気圧されて。
幸太はしぶしぶ頷いた。
「なんでナカヤン来ないんだ」
「当番、忘れちゃったとか?」
「……」
ビンゴ大会が進行中の教室で。
すでに普段の制服姿に戻っていた朔也は、いつまで経っても戻らないクラスメートに、小さくも鋭い棘 を呑み込んだような心地でいた……。
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