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求愛フラストレーション-23
「幸太、いい匂い」
「お前の体温感じてたら安心する」
幼馴染み二人に前後からひっしと抱きしめられる。
首筋に同時にかかる熱もつ吐息。
背中とお腹をもぞもぞ撫でられると、もう、堪えきれずに。
「ッ……ぎゃはは! やっ、やめっ、くすぐったい……!!」
余りのくすぐったさに幸太は吹き出した。
「もぉっ、いい加減離せっ、っ……ちょ……おい、大和……?」
が、うなじにキスされるとさすがに狼狽えた。
「な、なにしてんだよ?」
「なにって、キスだろ」
「は? なんでそんなことすんの? てか大事な話は? いい加減、ふざけるのやめよーよ?」
「……」
背中から幸太に抱きついた大和は。
無防備なうなじに不意に舌を、れろ、と這わせた。
「ッ……やッ、大和! だから! ふざけるなってば!」
「ねぇ、幸太。俺達、少しもふざけてなんかいないよ?」
正面から幸太に抱きついた真希生は。
血の気が引き始めたほっぺたにキスを。
「ふざけてるのは幸太の方だよ」
理解が追い着かず混乱している幸太に、今にも唇にキスしそうな距離で、あくまで穏やかな口調で続けた。
「中邑くんにビスケットあげるなんて信じられない」
「……」
「三人だけの思い出を踏み躙られたみたいで悲しかった」
「……」
「もう限界だった。高校卒業まで待つつもりだったけど、今すぐ幸太に俺達の気持ちを告げようと思った」
(……まさか、そんな……)
二人がふざけてるわけじゃないって、わかった。
ガチなんだって、理解した。
でもさ。
受け入れられないよ。
それこそ信じられないよ。
「だ……だってさ……」
「うん? なに、幸太?」
いつにもまして優しい眼差し、甘い声色を紡ぐ真希生に幸太は苦しげに問いかけた。
「大和は彼女がいたし、真希生はめちゃくちゃもてるし、女子みんなに優しいし、いつだって二人とも人気者で、その、なんで男のおれなんか……ありえないって……」
強張った表情でいる幸太の顔があたたかな両手にそっと包み込まれる。
「俺は幸太のためにそうしただけ」
「おれのため……?」
「そう。幸太が食べ散らかされないよう、代わりに害虫駆除しただけ」
信じ難いことを口にした幼馴染みに幸太は凍りついた。
「真希生、お前、今……なんて言った……?」
ほんのりパウダーの乗った頬を夕焼け色に染めて真希生は微笑む。
「得体の知れない害虫に付き纏われたら幸太が可哀想だから、代わりに俺が率先して囮のエサになってあげただけ」
(……うそだろ……)
ショックに打ちひしがれる幸太の心に容赦なくめり込む、新たに研がれた爪ーー。
「なぁ、幸太、本当のこと言うとな」
決して自分からではなく、意図的に誘導し、告白してきた彼女自身にお別れ宣言や自然消滅を選択させてきた大和は。
「これまでの女、全員、俺の中では使い捨てだった」
耳たぶを甘噛みがてら幸太に教えてやった。
「俺にはずっとお前だけだよ、幸太」
これまで隠してきた本性を現した幼馴染み二人。
好きで好きでやまない幸太を分け合うように、さらに抱擁に力を込めた……。
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