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求愛フラストレーション-25

「ふっ……ふざけるなっ、絶対やだっ、絶対むりっ、二人とも頭沸いちゃったのかよ!?」 「もうとっくにおかしくなってる」 「ッ……真希生ッ、おれの眼球舐めようとするな!!」 「……やっと幸太と……」 「ッ……俺のケツ揉むな、大和!!」 過激さを増してきたサンドイッチハグ。 嫌がっても無視し、むりやり続行しようとする大和・真希生に幸太は無性に淋しくなった。 (二人のこと嫌いにさせないでくれよ) これまでずっと一緒にいた幼馴染みに裏切られたような気分に陥った。 心はすっかり(しぼ)んで、怒りよりも深い悲しみに呑まれかけた、そのとき。 ドン!!!! 突然、部室のドアがノックされた。 いや、ノックというよりも乱暴に叩かれた。 何の前触れもなしに飛び込んできた暴力的な音色に三人は思わず静止する。 「幸太!!!!」 続いて聞こえてきた呼号。 幸太は短く息を呑んだ。 「……朔也くん」 「……今の声が中邑?」 「……中邑くん、あんな声だった?」 大和と真希生が戸惑うのも当然だった、普段から朔也は声が小さくて聞き取りづらい、ましてや彼の大声なんて今まで一度も耳にしたことがなかった。 ドン!! ドン!! ドン!! 「幸太!! 幸太!! 幸太!!」 ひたすら連呼されて幸太はぎゅっと眉根を寄せた。 「ここにいること、どうして知ってるんだろう」 「さぁな、俺がバスケ部だからか……こんなに騒がれるとマズイな」 大和は名残惜しげに幸太から離れた。 ベンチの横を擦り抜けて出入り口の方へ。 今も荒々しく叩かれているドアのロックを外した。 キィ…… 校庭の外れに位置する部室棟。 吹き曝しの通路に立っていたのは、やはり朔也だった。 「幸太、返せ」 通常のトーンに戻った朔也は長身の大和と対峙した。 (……まさか朔也くんが探しにきてくれるなんて……) 「……さっき、中庭で幸太にビスケットもらったとき、お前もアイツもブチギレてた」 パーカーのフードを目深にかぶった朔也は大和と真希生を順々に指差した。 二人の敵意は前々から感じていたが。 先程、中庭で、いつにもまして殺気立った二人分の眼差しに朔也は違和感を抱いていた。 そうしてビンゴ大会の進行係であった幸太がいつまで経っても教室に現れず、違和感は懸念と化した。 ビンゴ大会が終わると、すぐに校内を探しに回った。 手がかりはすぐに見つかった。 『さっきのコ、仮装コンで優勝したコだよね』 『やっぱ間近で見てもかっこいいわ~』 『……どこで見たソイツ』 『『うわッ、びっくりした!』』 誰よりも目立つ真希生のおかげで、彼の目撃情報を頼りに、この部室棟へ辿り着くことができた。 大和の所属先であるバスケ部の部室前に立ってみれば。 中から幸太の喚き声が聞こえてきて。 かためた拳でドアを叩くのと同時に、久し振りに、声量全開で叫んだ……。 「とりあえず入れよ」 体格が優れている大和は、有無を言わさず朔也の細腕を掴んで室内に招き入れ、またドアをロックした。

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