583 / 611

求愛フラストレーション-27

幸太は朔也の腕を掴んで部室を飛び出した。 頬を叩かれた大和は、突き飛ばされた真希生は、最愛なる幼馴染みをもう止めようとしなかった……。 (大和のことビンタしてしまった) 部室棟から校内へ、生徒が行き交う廊下を前進していた幸太は、きゅっと下唇を噛んだ。 (手が痛い) 小さい頃でさえ、幸太は二人とあんまりケンカをしたことがなかった。 グーで叩いたこともなく、精々ほっぺたを抓り合うくらいだった。 (あんなひどいこと言うから、つい、手が出た) この手より大和の方が痛いに決まってる。 本当に、二人と絶交になったら、どうなるんだろう。 今までずっと一緒に過ごしてきたから想像がつかない。 でも元通りはありえない。 二人の気持ちに応えることもできない。 やっぱり離れるしかないよなーー 「わっ?」 自分の教室に向かっていた幸太は、それまで大人しく引っ張られてきた朔也に不意に方向転換されて、危うく転びそうになった。 「こっち」 フードをかぶった朔也は、今度は自分が幸太の手首を掴み、渡り廊下を前進した。 校舎が変わる。 旧館の上階には人気がなく、風船の転がる階段を上って、最上階へ。 立ち入り禁止となっている屋上の扉前まで連れてこられて幸太は目を丸くさせた。 「朔也くん、屋上には出られないよ?」 こぢんまりしたスペース。 床は意外と清掃されていて埃も見当たらなかった。 「……知ってる、ここ、俺のサボリ場」 「え」 「……たまに掃除もしてる、寝たいから」 「そ、そうなんだ」 初めてサボリ場に連れてこられた幸太は、部室での出来事を引き摺りつつ、朔也に力なく笑いかけた。 「教室戻らないと、そろそろ閉会宣言も放送で流れるだろうし」 深くフードをかぶって目許が隠れている朔也は、パーカーのポケットに両手を突っ込むと、床に向かって呟いた。 「むかつく」 「えっ?」 「……幸太がさぼったから、俺が代わりに進行役、やった」 「えっ、朔也くんが進行役!? ご、ごめん、ありがとう……」 「むかつく」 「っ……ほんとにごめん!!」 常に閉め切られたステンレスドア。 上半分の磨りガラスには日の光が滲んでいた。 「幸太、ださい」 (朔也くん、すごいディスってくるぞ……) 「ダチとケンカして泣くの、ガキっぽい、ださすぎ」 一瞬、幸太は言葉を詰まらせた。 「……さっきのは普通のケンカじゃないっていうか」 「二人に求愛されたんだろ」 「きゅ、求愛って……」 「くそださ」 「ッ……あのな! 大和も真希生も、ずっとずっと昔から一緒にいたんだよ! それなのに急にあんなっ……あんなこと……二人の、あんな裏側……知りたくなかったんだよ……」 「幸太の泣き虫」 「ッ……言うほど泣いてない……!」 そう言いつつ、幸太は新たに目尻に溜まりつつあった涙を力任せに手の甲で拭った。 「……もう戻るから、朔也くん、一人で寝てなよ……寝過ごして夜にならないよう注意して……」 視線を合わせようとしない朔也に背を向ける。 次に二人に会ったとき、どうしたらいいのか、頭を悩ませながら階段を下ろうとした。 「行かないで」 一段目に足を下ろす前に幸太は立ち止まった。

ともだちにシェアしよう!