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君は幼馴染み-5
「からっ! これ辛い! かっら~~~!」
「大袈裟だな」
「いやマジで辛いもん!? 大和、辛くないって言ったのに!」
「辛いの好きな人間には物足りないくらいだけど」
「おれは辛いの苦手な人間!!」
ファストフードショップの片隅、窓際のテーブルで期間限定のバーガーを一口もらい、その辛さにヒィヒィしていた幸太は必死になってシェークを飲む。
「うう……まだ辛ぃぃ……」
「もう一口食べてみるか?」
「誰が食べるか!!」
向かい側に座った大和は涙目にまでなっている幸太に堪らなさそうに笑みを零した。
「今の幸太、クセになりそうだな」
(え……? 幼馴染みが辛い辛いって苦しんでる姿がクセになる……?)
大和って、大和って、実はドSだったりする……?
今日は一学期の終業式だった。
部活がなかった大和は、クラスメートからのカラオケのお誘いを断り、幸太と一緒に自宅から近いバーガー店でランチをとっていた。
「大和、カラオケ行かなくてよかったの? クラスのみんな、結構参加してたっぽいだろ?」
ナゲットをぱくつきながら幸太が尋ねれば大和は平然と答える。
「夏休みはできるだけ恋人と過ごしたいだろ」
「ぶほっ」
食べている最中でブフォした幸太は慌ててテーブルを拭いた。
「ねーねー、峯センパイがいる」
「高校生になってオトナっぽくなったよね」
自分達が通っていた中学校の後輩がちらほらいて、男前オーラを惜しみなく放つ大和にチラチラ目線を寄越してくる、同年代の客も然りだ、ちなみに全員が女子であった。
「ナゲット、食べるか?」
注目されるのに慣れ切っていて通常運転の大和に幸太は内心舌を巻く。
「それ辛いやつだろ、食べない」
「交換しよう」
「嫌だって、いらない」
「ほら」
「あーーーもーーー!」
勝手に交換されて仏頂面になった幸太は、赤黒いナゲットをしぶしぶかじった。
「辛っっっ!」
「ふ……」
「うぉいこらぁっ、人が苦しがってるの見て笑うなぁっ」
またシェークをずーずー飲んでヒリつく舌を冷やしていた幸太だが。
やたらとこちらをガン見してくる女子に気づき、首を傾げた。
(他のコと違ってすンごい見てくるじゃん……あれって近くの女子高の制服だよな……大和のガチファンとか?)
いや、待てよ。
なんか見覚えがあるよーな……。
「あ」
彼女が誰であるか思い出した幸太は思わず声を上げる。
自分の背後に注目している幸太に気づいた大和は、おもむろに斜め後ろに顔を向けた。
「あ」
次に声を上げたのは彼女の方であった。
トレイを持っていた彼女は大和と目が合うと、その場でくるりと回れ右し、死角へと消えていった。
「……大和、今の人って……」
同じ中学に通っていた一つ年上の上級生だった。
そして。
「元カノだ」
大和の元カノ、しかも中学二年のときに初めてできた一番目の恋人であった。
「びっくりしたな。ここで会うなんて初めてだろ」
びっくりしたと言う割に大和は落ち着き払っていて、えらく過剰なリアクションを見せた彼女とは対照的な態度に幸太は戸惑う。
「……なんかさ、向こう、すごい反応してなかった?」
「元カレにばったり会ってバツが悪かったんだろ」
幸太の位置からは彼女の様子がよく見えたが、嫌悪感といった悪感情は見て取れなかった。
ただ、やたらと真っ赤になっていたような……。
(……そもそも大和ってカノジョが七人いたんですよねー……)
小学校一年の頃から、おれのこと好きとか言ってたけど、それじゃあ今までのカノジョって……?
どれも向こうから告白してきて、部活でなかなか会えなくてすぐ自然消滅を迎えたパターンとか言ってたけど……?
「……ッ、あっ、辛っっ!!」
大和の交際遍歴に気を取られていた幸太は、辛いナゲットをうっかり一口で食べてしまい、目を白黒させた。
「ふは……」
堪えきれずに吹き出した大和に憤慨するのだった……。
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