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ベータな生徒はアルファの先生に選ばれたい!-3

恋して注目するようになってわかったのは、樫井が実は人気のある教師ということだった。 『樫井センセイ、アルファにもベータにもオメガにも等しく無愛想なんだよね』 『つまりみんなに平等』 『露骨にアルファびいきする先生も多い中で貴重過ぎる』 一部の生徒にファンがいたり、中にはガチ勢がいたりと、コアな人気を誇っていることに凌空は脱帽したものだった。 (だって顔は悪くないし、背は高いし、何よりアルファだし) 『なー、今度●●女子高のコ達と遊ぶんだけど、りっくんも来ない?』 『あーーー……俺はいーや』 (なんでだろ) 今までは女の子と話して遊んで、付き合って、楽しくしてきたのに。 なんで樫井先生なんだろ。 意地悪でSっぽくて二十七歳で、学校から近いマンションに一人暮らしの独身で、近くのコンビニで時々お酒とごはん買って帰ってる、休日は時々山登りして写真撮影したりなんかしてる写真部顧問。 男なのに。 アルファなのに。 (ベータの俺には届かないのに) 凌空は樫井に告白しようなどとは微塵も思わなかった。 そんなこんなで月日は流れ、二年生になって、女の子と話す・遊ぶに時に集中したものの、付き合う気持ちになれずに無意味な時間ばかり過ごして。 『はぁ……樫井せんせぇ……』 樫井への気持ちは枯れるどころか育つに育っていった。 ひとりえっちのネタにするほど樫井にドはまりしていた。 (樫井先生のあの白くて大きな手で……されたい) そんなやましい行為を繰り返すものだから、日中、学校で樫井と擦れ違うときは……危なかった、条件反射で反応しそうな下半身を何とか必死こいて宥めたものだった。 何にも知らない樫井はただ素っ気なく通り過ぎていくばかりだったが。 (樫井先生、今は三年の受け持ちだから、もしかしたら来年担任になるなんてことは……) いや、無理だ、アルファばっかのクラス受け持ちになるんだってば、アルファの先生は。 平凡なベータばっかのクラスの授業は見てくれないから。 てか、そもそも、俺は文系だから……。 (あーもう、言い訳ばっかうるさい、俺!!!!) 樫井への片思い歴が一年以上経過し、いい加減、言い訳だらけの自分に凌空は嫌気が差してきた。 (確かに俺はオメガじゃない、その他大勢のベータに過ぎない) しかも先生のことを好きな人はいっぱいいる。 ベータの俺なんか絶対に選ばれない、選ばれるわけがない。 でも。 せめて……選択肢には入りたい。 (選ばれなくてもいいから、一度でもいいから、俺のことちゃんと見てほしい!!) そんなこんなで凌空は樫井に告白することを決意した、定番のバレンタインデー、コンビニでセール対象になっていたチョコレートをどぎまぎしながら購入した。 (ほんとは去年できたばっかのケーキ屋さんで買いたかったけど、あそこ高いんだもんな、四つ入りで千円超えるとか無理!) 学校近くにある新しいパティスリーは白をベースにした洗練された外観で、店内にはケーキの他に焼き菓子も置いてあり、高くて手が出せない凌空はよく外から覗き込んでは友達に笑われていた……。 『先生のことが好きです』 そうして一世一代の告白チャンスはものの見事に失われた。 意気消沈した凌空は、自分で買ったコンビニのチョコレートをやけ食いし、泣いた。 「ううぅぅう~~……こんなのってないよ~~……」 (神様、ベータの俺は選択肢になる権利もないの?)

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