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ベータな生徒はアルファの先生に選ばれたい!-4

「あれって樫井センセェじゃ?」 放課後、制服の上にダッフルコートを着込んで友達と下校していた凌空はどきっとした。 「うわっ、急にしゃがんだりしてどしたの、りっくん」 「樫井センセェにビビり過ぎ」 「べ、別にビビったりなんか、ししし、してないし!」 「めっちゃビビってるじゃん」 自分より背が低い友達の背中に窮屈そうに隠れた凌空、白い外観がぱっと目を引くパティスリーから出てきた樫井に心臓までぎゅっと縮こまらせた。 ミドル丈のコートを羽織り、ショルダーバッグを肩に引っ掛けた樫井は片手に紙袋を提げていた。 「樫井せんせ、甘いもの好きなんだ」 「苦いのか辛いのしか食べないと思ってた」 「すんごい偏見……ッ、いだだ! ちょ、りっくん? 俺の肩もぎ取るつもり!?」 やや遠目に樫井の背中を見送っていた凌空は、知らず知らず友達の肩を鷲掴みにし、込み上げてくる動揺を堪えていた。 (まさか、あれって、バレンタインデーのお返し?) バレンタインデー終わったばっかでホワイトデーまでまだ全然日数あるけど。 (樫井先生は確かに甘いもの苦手なんだ、文化祭で自分のクラスがつくったドーナツすら拒否してた) オメガのコにもらって、実は運命の番でした~みたいに盛り上がって、ホワイトデーまで待てなくてお返しのプレゼントしてあげるとか? 「……」 「いたたたた! 俺の肩がー!」 友達の肩をみしみし言わせながら凌空はちょびっとだけまた泣いた。 (あそこのマカロン、めちゃくちゃおいしそうだったんだよなー、色もいろいろ、味もいろいろあって) 俺も食べたかった。 樫井先生にもらいたかった……。 「ううぅぅ……」 「凌空、ごはん食べてからずっとぼんやりして、たまに唸ってるけど、テスト勉強しなくて大丈夫なの?」 母親の言葉に凌空はギクリとする。 樫井への告白を決意してからは気もそぞろ、そして告白するタイミングを失って一人勝手に玉砕して落ち込んでいたわけで、テスト勉強どころではなかった。 (神様って残酷過ぎる!!!!) 神様に責任転嫁してもどうにもならない、凌空は泣く泣く勉強に励んだ、時に本当に涙がぽろりしたが、赤点だけは免れようとコツコツ励んだ……。 「次で最後だぁ」 「古川センセイの古典! 選択問題多めで楽勝でしょ!」 「なーなー、昼どっか食べにいってカラオケ行こーよ」 学年末テスト最終日、三日続いた試験もラスイチとなって盛り上がる同級生を尻目に凌空は「あの答えで合ってたんかな……え、あれ、てかなんて書いたっけ……そもそも空欄埋めたっけ……」とブツブツ独り言を繰り返していた。 「りっくんが限界に近付いてる」 「てか、もう限界来てない?」 「まー、古典は大丈夫でしょ、何せオール選択問題なんだし……あ、センセイ来た……うわ、マジですか……」 ラスイチとなる古典の試験、担当の試験監督がやってきて生徒達は慌てて席につく。 終わったばかりの世界史の試験に気を取られている凌空は、消しゴムのカスが散った机を凝視し、ブツブツしていたのだが。 「カンニングは見つけ次第、失格とするから覚悟しておくように」 凌空は目を見張らせる。 顔を上げれば教卓の前に樫井がいた。 「かっっっ……」 思わず声が出、隣の生徒に怪訝そうに見られてしまった。

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