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ベータな生徒はアルファの先生に選ばれたい!-5
「試験の途中で具合が悪くなったら挙手するように」
テスト毎に変わる試験監督はその試験開始まで生徒にはシークレットである。
白の襟シャツ、Vネックのネイビーのセーター、チャコールグレーのスラックスを履いた樫井は淡々と言い、最前列の生徒に向け答案用紙を配り始めた。
(樫井先生だぁぁぁぁあ)
同じ教室にいる。
同じ空気吸ってる……!
(夢みたい)
尻尾やら耳やら生えてきそうな勢いで顔を輝かせていた凌空だが。
はたと我に返って深々と項垂れた。
(きっと樫井先生はあのオメガのコともう付き合ってる)
「それでは、テスト、始め」
(ベータの俺には可能性いっこもない番ってやつで結ばれてるんだ)
裏返しにされていたテスト用紙を捲る音が静かな教室に一斉に響く。
やや遅れて凌空も捲り、楽勝と言われている古典の試験に臨んだ。
とてもじゃないが集中できなかった。
一年生の頃から好きで、二年生のバレンタインデーに告白しようと覚悟を決めていたらオメガに先を越されて撃沈、未練たらしく片思いを燻らせていたところに試験監督として教室へやってきた樫井先生。
さすがに下半身は反応しなかったが、胸の高鳴りが暴走して苦しくなった。
(おおお、俺の横を樫井先生が……!!)
教室内を見回る樫井が自分の横をゆっくりと通り過ぎていった際には口から心臓が飛び出そうになった。
「三十分、経過」
(え!? もう半分以上過ぎた!? まだ三問しか問いてないんですけど!!)
五十分あるテスト時間、残り半分を切ったと知らされて凌空は慌てふためく。
集中しなければと、やっと古典のテストと真剣に向き合おうとした。
優しい古典の先生はわかりやすい選択肢を用意してくれていた。
どの問題もほぼほぼ正解が一目瞭然であった。
(……選択肢がいっぱいある……)
シャープペンシルを握った凌空の眉間に深く刻まれた皺。
(俺がなりそこねたもの)
こうやってまじまじと見られることもない。
選択肢にもなれない、ただスルーされるだけの存在――。
「う」
凌空はまた声を洩らしてしまった。
その上、今回は堪えきれなかった。
「う、う、う……ぅぅ……」
凌空は泣いてしまった。
あろうことか試験中の教室で。
「ううう~」
近くにいた生徒がまず反応し、静かだった教室全体に動揺が伝わり始め、当然、試験監督が放置するわけもなく。
「どうしたんだ、具合が悪いのか」
すぐ横で立ち止まった樫井に凌空の心臓は改めて跳ね上がる。
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