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えっちな年下は、好きですか。/上級生×下級生

「あ……上条先輩……」 受験勉強の息抜きとして特に用もないのに一つ違いの弟の部屋を訪れた上条(かみじょう)一嘉(いつか)は彼と出会った。 「二年の折枝です……お邪魔してます」 同じ学校の制服を着た折枝(おりえ)壬琴(みこと)。 さらさらした天然茶髪、触り心地の良さそうな肌理細やかな美肌。 抑えたような小声で喋る大人しそうな下級生だった。 「去年、高総体で上条先輩が弓を引くの、見てました……全部的にあてて、びっくりするくらいかっこよくて……憧れました」 引退するまでの一年間、弓道部部長を務めていた一嘉は様々な大会の団体戦でチームを好成績へ導き、個人戦では一位をとったこともある優秀なエースだった。 「それなら弓道、入ればよかったのにな」 一嘉が笑いながらそんな言葉をポンと投げかければ「ッ……すみません」と本気で謝ってきた。 コイツ、根が真面目だから、とポテトチップスをばりばり食べている弟に注意される。 こめかみをポリポリした一嘉はシュンとしている壬琴の肩を軽めに叩いた。 「興味あったら放課後いつでも道場覗いてみたらいい」 この時、一嘉は気づいていなかった。 壬琴の憧れの対象は弓道なのだと勘違いしていた。 本当は。 「……上条先輩」 それからというもの。 移動教室や昼休み、学校の廊下や階段で背中におずおずと声をかけられ、振り返れば、頬を紅潮させた伏し目がちの壬琴がいた。 大学受験を控え、自宅勉強派の一嘉が帰宅して問題集を解いていたら、放課後デートで弟は留守なのに差し入れを持ってやってくることもあった。 「あいつ、いないけど。ちょっと上がってくか?」 「……いいです、勉強の邪魔になるから。頑張ってください、先輩」 気のせいだろうか。 これまで色んな後輩に「先輩」と呼ばれてきた、珍しくもない、聞き慣れた言葉のはずだった。 それなのに。 伏し目がちの壬琴に囁くように小さな声で呼ばれると妙にくすぐったくて。 気持ちがふわふわするというか。 問題文に集中していたつもりが、一嘉はいつの間にか頬を紅潮させて遠慮がちに自分を見つめてくる壬琴に脳内を占領されるようになった。 男なのに。 ひょっとして。 いいや、まさかそんな、それこそ気のせいだ。 でも。だけど。 その日の朝、一嘉は受験勉強がはかどらずに昨夜は早寝して体調は抜群で登校した。 他の生徒に紛れて緩やかな坂道を上っていたのだが、さすが元弓道部、鍛えられた精神力の賜物か。 覚えのある気配を察してぐるんと振り返ればすぐ背後に壬琴が立っていた。 正に声をかけようとした瞬間だったらしい、唇が半開きになっている。 「……びっくりしました」 眩しい木漏れ日の元で壬琴は小さく笑った。 控え目ながらも綺麗な笑顔を前にして、一嘉は、無視できない胸の高鳴りに一瞬だけ呼吸を失った。 「折枝のことが好きだ」 一嘉からの真っ直ぐな告白に壬琴は……涙ぽろり。 「俺……本当は去年から……ずっと秘密にしておこうって思ってました、でも、上条君と同じクラスになって……やっぱりどうしても、卒業まで、少しだけでもいいから同じ時間を過ごせたら……それだけでいいって……」 ずっと好きです、先輩。

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