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奥までいっぱいマッサージ♪/隠れ美形さん(変態)×目つきワル平凡くん
この季節、甘ったるい白梅が軒先で悶々と香る「みくも治療院」。
極々普通な整体師のオッサンが一人でやっている隣町の治療院に高校一年生の杏彦 は去年から通っている。
部活などのスポーツで体を酷使しているわけじゃあない。
五人兄弟の二男である杏彦はパートに出ている母親、転勤中の父親、社員寮で暮らしている社会人兄の代わりに家事全般、弟らのお守りを担当している。
おかげで十代の身空で肩凝り、腰痛、筋肉痛が地味に続いている。
「どーも……って、あれ」
放課後、今日もリフレッシュのため「みくも治療院」の古めかしい建物を学ラン姿のまま小脇に通学鞄を挟んで訪れてみれば。
「どうもこんにちは」
見慣れない青年に出迎えられて杏彦はちょっと驚いた。
「君、杏彦君ですよね」
白の半袖長ズボンというユニフォームを着用しているところを見ると新人スタッフのようだが。
「父から聞いてます」
ちょっと長めの髪を一つ結び、古くさ~い瓶底眼鏡が何だかあやしい……。
「え。父って」
「ええ。僕はこの治療院を営んでいる三雲の息子の晴孝です」
「息子」
一六〇センチ半ばの杏彦は初対面の晴孝 をちらっと見上げた。
三白眼で目つきに少々トゲがあって傍から見れば睨んでいるように見える。
ただ単に人見知りで本当は緊張しているだけなのだが。
「父は旅行に行ってまして」
「え」
そんなん、先週一言も言わなかったけど、三雲のオジサン。
「僕は先日こちらに帰郷しまして。この治療院を継ぐために勉強していた身なんですが、頃合もいいということで、留守を任されましてね」
「はぁ」
ちら、ちら、杏彦は晴孝を見る。
傍目には無愛想な眼差しに動じるでもなく晴孝はにこやかに続ける。
「今日はよろしくお願いします、杏彦君」
……よろしくお願いされても困る。
……なんか帰りたいな、でも無理か、無理だよな。
「それではベッドへどうぞ」
……うん、やっぱ無理。
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