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リバーシング・キス/外国人転校生×美人系不良
「かじりつきたいくらいにそそる目だ」
その転校生は遠い異国からやってきた外国人だった。
「俺の国ではお目にかかれない神秘的な瞳だ」
日本語バリバリ堪能、しかもくどき文句に関しては特に流暢ときていた。
「もっと近くで見てもいいか?」
「どうぞご勝手に」
鴉の濡れ羽色という表現が正に相応しい髪色をした彼は天然ダーティーブロンドの転校生にひんやり告げる。
決して人に向けるべきでないコンパスの鋭い針の方を緑水晶の双眸にさり気なく翳して。
「それ以上近づいたらこの針がその目に刺ささりますが。それでもいいのなら」
白肌に艶治なまでに眦深く切れ込んだ一重の双眸。
鋭いまでに澄んだ眼差し。
至極滑らかそうな椿色の唇。
転校生のヨシュアは堂々と見惚れながら隙のない笑みを浮かべた。
「手厳しいな、雅誓」
荒くれどもの巣窟と言われている有名高校、その中でも無法地帯ナンバーワンと名高い三年一組の教室にて。
同級生はスキンヘッドやらドレッドヘアやら、もはや何色なのかわからないカラーに染めていたり、特攻服じみたツナギだったりゴリゴリオラオラな私服だったり。
ちゃんと学ランを羽織って襟シャツを着用している雅誓 。
長袖シャツを腕捲りして長めの髪をハーフアップでまとめているヨシュア。
「おいゴラぁ、転校生ッ、テメェ調子乗ってんじゃねぇぞッ」
「新入りの分際で姫に言い寄ってんじゃねぇぞゴラぁ」
ゴリゴリオラオラなクラスメートにぐるりと取り囲まれて凄まれてもヨシュアは平然としている。
そこへ飄々と届いた一声。
「殺気立ってないでみんな仲よくしろよ」
正面から転校生に覗き込まれて無表情のままコンパスを翳していた雅誓は、ふと、鎧の如く身に纏っていた冷ややかオーラを緩めた。
「雅誓もコンパスなんか向けちゃって、危ないぞ? その手癖の悪さ直さないと」
雅誓と同じく学ランを羽織り、インナーにはTシャツ、身長180センチ以上の彼は人懐っこい笑顔を浮かべた。
清己河原隆真 。
つい先だって解散したばかりの暴走族チームの元ヘッド。
責任感があって、でもどこか抜けていて、そんなギャップが魅力的でメンバーからは慕われていた。
ちなみに雅誓は参謀的役割をこなしていた。
「清己の言う通りだ、雅誓はシールドを張ってるみたいだ」
「清己じゃねぇぞッ、清己河原元総長殿ッ、短縮して呼ぶんじゃねぇッ」
「まぁまぁ。確かに長ったらしい名前だし。苗字が二つあるみたいだもんな」
隆真に言われた通り雅誓はコンパスを引き出しに仕舞った。
『雅誓って頭いいよな』
『この学校の人間が全員低能なだけだ』
『俺の側近になれよ』
中学校に入学して早々、雅誓は隆真からチームにスカウトされた。
『ほら、ちゃんとヘルメットしろ』
『中学生でバイク運転、立派に法を犯しておきながらヘルメット着用にはこだわるのか』
『安全一番!』
隆真の後ろで感じる風が好きだった。
ゴリゴリオラオラなクラスメートから次々とお菓子をもらって嬉しそうにしている彼に雅誓は心の底で項垂れた。
チーム解散は末端メンバーが人身事故を起こしたのがきっかけだった。
命に別状はなかったが、同年代の少女は一生残る手術痕をその身に負うことになり、隆真は迷わずその選択をとった。
それどころかあれだけ大好きだったバイクまで捨てた。
お前がそこまでする必要はないという雅誓の言葉を聞き入れず、一生運転しないと自分自身に誓いを立てた。
『彼女、やっと笑ってくれるようになった』
『だから、どうしてお前がそこまでやる必要がある』
被害者を毎日ずっと見舞っている隆真に、雅誓は、ある予感を覚えていた。
『泣き顔も、笑顔も、なんだろう、胸に優しく突き刺さるんだ』
「こんなにいっぱい、彼女一人じゃ食べ切れないよ、雅誓も食べる?」
秘かに回想に耽っていた雅誓のすぐ目の前に差し出されたお菓子。
その向こうで屈託なく笑う中学時代からの友達。
「俺は甘いものが嫌いだ、いい加減覚えてくれ、隆真」
わいわいきゃあきゃあしているゴリゴリオラオラに取り囲まれた隆真を、笑いかけてくる彼に対し伏し目がちでいる雅誓を。
窓際の席から緑水晶の双眸が見つめていた……。
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