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続・ツンなジキルはインファンテリズムハイド持ち

春の兆しに視界が彩られ始めて何となく浮き足立つ季節。 まるで頭の中まで桜色に染まるような。 「飲みに行きたい?」 桜色というか、まっぴんく色に頭の中が染まった経済学部大学生・森永は年上恋人である医歯薬学総合研究学科院生・杠葉を思い切って飲みデートに誘った。 「君は。特訓だとか修行だとかこじつけてアルコールが苦手な人間に飲酒を強制し、挙句の果て、外飲みまで強いるような悪辣な輩だったのか」 予想通り、麗しく整った顔をひんやりさせて蔑みの眼差しを放ってきた杠葉に森永は必死になって言う。 「ユズさん、俺ですね、生まれて初めてバイトしたんです!」 「一日限定、親子向けの街頭アンケートできぐるみを着用して子どもの関心をまず引く、という内容だったか」 話したときは興味なさそうにしてたのに、ユズさん、ちゃんと覚えてくれてた! 「そうです! それで生まれて初めて自分でお金を稼ぎました!」 「声が大きい、森永君」 「ああっ、スミマセン、生まれて初めて自分でお金を稼いだんです」 「わざわざ耳打ちしなくていい、適度な声量で適度な距離を保ってくれ」 様々な学部の学生が大勢集う大学の多目的スペース。 ソファに並んで座っていた杠葉に注意されて森永は笑顔で頷いた。 「注意されてどうしてそんなに嬉しそうなんだ、君は」 「大学でユズさんとこうしておしゃべるできるの、貴重っていうか、同じ大学でもなかなか会えないから、嬉しくって」 相変わらずバカ正直な年下彼氏から顔を背けた白衣姿の杠葉は、前面ガラス張りの向こう、中庭で開花準備に入りつつある桜に視線を注いだ。 「バイト代でユズさんにご馳走したいって思ったんです」 常日頃ほぼ満開状態に近いテンションの森永や他の学生に見られないよう、そっと、うっすら紅梅色に艶めく唇を綻ばせた。 普段は観賞される側のソメイヨシノが杠葉の貴重な微笑みを贅沢に独り占めしたのだった。
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