47 / 611

続・ツンなジキルはインファンテリズムハイド持ち-2

金曜夜、森永は多くの客で賑わう人気の居酒屋へ杠葉を連れて行った。 「人が多くて騒がしいな」 七時を過ぎたばかりでもう酔っている同年代と思しき団体を冷ややかに眺める杠葉、一方、年上恋人と初めての飲みデートにウキウキが止まらない森永。 てっきりこれから二人でごはんだと思ってたら「食事はもう済ませてきた」パターンの連続で、実はランチもディナーもあんまり行ったことなかったから。 やっば、めちゃくちゃテンション上がる~~!! 「ユズさん何飲みます!?」 「君が決めてくれ。食べ物も適当に頼む」 「ええええ!! 光栄です!!」 カウンターも二人連れで埋まりつつあった。 すでに満席であるお座敷の掘りごたつ席に着く森永は向かい側で相変わらずクールビューティーしている杠葉に堂々と見惚れていた。 『もりながぁ……ヨーグルト……ほちぃ』 お酒が入るとビッチ幼児化するユズさん。 ユズちゃんになってめちゃくちゃかわいく甘えてくれるけれど。 こんな風に教授とかを気遣う必要ない外飲みの場合だったら、うん、普通にお酒を楽しめるんじゃないかな。 ユズちゃんになって甘えられるのもめちゃくちゃ嬉しいけど! 俺、ユズさんと普通にお酒飲んでウチとは違う雰囲気楽しんでみたい! 「すみませーん、ハイボール二杯とポテト大盛りとカレーエビマヨと軟骨唐揚げ!」 「油っこいものばかりだな」 「あ! それとオススメ串盛りと! 明太もちチーズピザ! 鉄板餃子!」 「……サラダを一つくらい頼んでくれ」 「もりながぁ」 八時過ぎ、向かい側から隣に移動した杠葉は公衆の面前である居酒屋にてビッチ幼児ユズちゃん化していた。 冴え冴えとした双眸はとろーん、色白の肌をほんのり紅潮させ、真横から森永にぴったりくっついて、すりすり、すりすり。 「ユズさん、じゃない、今はユズちゃんか、今日は隣同士じゃなくて向かい合って食べよっか!?」 サラサラした手触りのいい黒髪を僅かに乱し、上目遣いに森永を覗き込んできたかと思えば。 無防備に口を開けて鳥の雛みたいに次の一口をおねだり。 「あーーーん」 か、か、かンわい~~~……!!!! 周囲の客や店員の注目を浴びても何のその、幸福感やらデレ感に満たされた森永は宅飲みと同じくやっぱり甘やかしてしまう。 お箸でつまみ上げた軟骨唐揚げを食べさせようとして、ぽろりとテーブル上に粗相、慌てて手で掴んで自分で処理しようとすれば。 「ぱくっ」 杠葉は森永の指先ごとかぢりついて軟骨唐揚げを食べた。 コリコリした食感を口内で満喫し、油分に濡れ光る唇を一舐めし、また無駄に上目遣いに森永を見つめて「おいちぃ」と満足そうに感想を述べた。 た、た、勃ちそぉ~~~……!!!! 「次、あれ、ジュージューしてるやつ、ユズにちょーだい」 「えっ、鉄板餃子っ? まだジュージュー熱いから後にしよっか!?」 「もりなが、フーフー、して」 「ぶはっっ……フーフー……っっ……ユズちゃんかわいっっ……!」 「あーーーん」 「ああっ、ちょっと待って、フーフーフーフー!」 かまってちゃん杠葉のお世話やら「すみませんっ、この人お酒弱くって、むだにかわいくなっちゃってすみませんっ」と周囲へのフォローで忙しく、森永はろくに飲みも食べもできずにいた。 居酒屋に一時間近くいながら、ぐうううう~と鳴った森永のお腹。 森永に抱きついたままピザを食べていた杠葉はきゃっきゃ笑った。 「もりなが、おなかへった? なに食べたーい? ユズ、食べさせてあげる」 はぁ~~ユズちゃん天使~~むり~~しんど~~。 結局ユズちゃん化しちゃったけどやっぱりコレはコレで楽しいよな、うん。 とことん甘やかしてくれる森永にこどもみたいにぎゅっと抱きついて無邪気にはしゃいでいた杠葉だったが。 ふと抱擁を緩め、自分より体つきがしっかりしている年下彼氏にしなだれかかり、色香に富んだ流し目で森永を見つめて。 彼にだけ届くよう囁きかけた。 「俺のこと食べる……?」 はっとした森永は改めて杠葉を見下ろした。 「もりながぁ、あーん」 さっきのって、いつものユズさんじゃなかったか? 気のせいかな? 「はーい、ピザぁ、あーん」 「もごごっ、一口一枚はちょっとむりかな!」 ユズさんがあんなこと言うわけないか。

ともだちにシェアしよう!