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続・ツンなジキルはインファンテリズムハイド持ち-3
日中はポカポカ陽気で春めいていても夜になれば増す冷気。
「もりながぁ、背中、あったかーい」
まだ多くの人々が行き交う表通り、森永は杠葉をおんぶして歩いていた。
「ひひーん」
自分をお馬さん扱いする杠葉に森永は笑顔が止まらない、肌寒いながらもここだけは春満開、居酒屋から甘えっぱなしの年上彼氏に頭の中は桜吹雪状態だった。
「お馬さん、ぱかぱか」
バイトしてよかった。
ユズさん、ユズちゃん、楽しませることができてよかった。
就活地獄とか、めちゃくちゃ大変そうだけど、社会人になって安定した収入もらって、大好きな人にご馳走し続けられるって、かっこいいよな。
ユズさんのために頑張ろっと!!
「こっちー」
「え、こっち? 遠回りになっちゃうけど?」
「もりなが、ユズのお馬さん、いうこときくのー」
「ひ……っひひーんっ」
森永は杠葉が指差す方へ忠実に進んでいった。
帰り道からどんどん逸れていく。
裏通りを突き進み、いつの間にやらいかがわしい通りへ、ラブホテル街へ踏み込んでいく。
「ユズちゃん、おうち遠くなっちゃったよ、それにさすがにちょっと疲れてきたよ、お馬さん」
居酒屋で森永に着せられた細身のスプリングコートの下で仄かな熱を持て余していた杠葉は、三十分近く自分をおんぶし続けて息が切れがちな年下彼氏の後頭部を薄目がちに見つめた。
「じゃあ……どこかで休むか、森永君……」
森永は背筋ピーーーーーーンッ。
多少、アルコール摂取のため掠れてはいたが、普段通りの声色に鼓膜がジンジン痺れた。
「ユズ……さん?」
居酒屋で店員や客にいくら注目されようと、擦れ違うカップルにクスクス笑われようとヘラヘラ笑うだけでへっちゃらだった森永の耳がたちまち真っ赤になっていく。
思わず電柱脇で立ち止まった森永に杠葉は、きゅ、と一層力を込めて抱きついた。
火照った耳たぶにそっと囁きかけた。
「今……君のヨーグルト……一番食べたい……」
森永は一番出入り口が近かったホテルに突入し、そして。
「ユズさん……っっっ」
「あ……森永君……」
フロアパネルで咄嗟に選んだ部屋に入るなり杠葉にのしかかった。
服を脱ぐのも、脱がせるのも二の次にして、ベッドで密に重なり合った。
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