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恋してせんぱい-5

『お前のことが好きだから、こんなこと、俺はしたくて堪らねーんだよ』 先日、中等部二年の本条真貴は高等部三年でバスケ部副主将の鐘ヶ江燎と付き合うことになった、らしい。 本条本人はまだいまいちピンときていない。 鐘ヶ江と恋人同士、そんな実感が湧いてくるような甘い触れ合いやら会話やらが一切ないからだ。 それに。 「おい、トキ、こんな地味に暗記する時間あるならカンニングペーパーつくった方が手っ取り早くねぇ?」 「はい、燎、君が居眠りしてアンダーライン引くのをさぼっていた日本史の教科書。二重線はテストに出る確率が高いからしっかり覚えるように。地味に書き写す時間はたっぷりあるからね」 中間考査を来週に控えて部活動は休みに入り、問題作成中の職員室は厳戒態勢、ピリッと引き締まった空気に満ち満ちた学び舎。 いつにもまして勉強する生徒が多い図書館にて。 「試験官、腹痛起こしてトイレ行ってくんねぇかな。行ったら即お前の答案と取り替えんのに」 「クラス、違うのに? 俺の教室まで来るつもり?」 誰もが私語を謹んで勉学に励む中、制服をこれでもかと着崩した鐘ヶ江と、学園一名の知れた才色兼備なる香原時史の会話が厳粛なる静寂を涼しげに乱していた。 他の生徒ならば顰蹙を買う行為だが、この二人となると黙認されがち、むしろ耳をそばだてて聞き入りたくなる。 中等部からの仲で華のある対照的な二人を観賞するのは勉強中の息抜きに丁度いいというか。 「もっと将来役に立つ情報、教えてほしいよな」 「例えばどんな?」 「株とか。起業とか?」 だが、同じテーブルで二人の向かい側にちょこんと座る本条だけは違った。 「いっしょ勉強しようぜ、本条」と鐘ヶ江に誘われて恐れ多いながらも同席した。 だけど鐘ヶ江は隣の香原に話しかけるばかりでこちらに見向きもしてくれない。 「わからないところあったら教えようか?」 香原の方が気にかけてくれて、益々恐縮した本条、フルフルと首を左右に振って遠慮した。 すると聞こえてきたひそひそ話。 「あのコ誰?」 「なんか地味」 「弟……じゃないよね、似てない」 「バスケ部の後輩? でもひ弱そ~」 ぐっ……と本条は唇を噛んだ。 彼自身、誰よりも一番わかっていた。 二人はキラキラした色鮮やかな世界の住人。 僕は……モノクロ? 昔の古い写真みたいに色褪せた世界の中? トキ先輩、鐘ヶ江先輩といっしょにいると、何だか自己嫌悪がひどくなっちゃうな。 「腹減った、揚げドーナツ食いてぇ」 鐘ヶ江先輩って何だかよくわからない。 『俺の恋人になったんだからな』 あんなこと言っておいて、別に、特に、だから。 前とあまり変わらない関係だから。 「トキ、買ってきてくんねぇ?」 「カフェテリア、もう閉まったよ、燎」 二人は名前で呼び合う関係。 おしゃべりするときはお互いどっちも見つめ合ってる。 「テスト終わったらどっか行きてぇな」 「そうだね。海? 山?」 「どっちも」 ……あれ? ……もしかして、僕、邪魔? どう考えてもトキ先輩と鐘ヶ江先輩、お似合いだ。 男同士だけど、そんなこと気にならなくなるくらい。 僕、どうしてここにいるんだろう……? 「遠出して一泊すんのもいーかもな」 鐘ヶ江のその言葉に本条はとうとう限界を迎えた。 「ッ……資料、探しにいってきます」 向かい側に着く二人の顔も見ずにそう言ってテーブルからあたふたと離れた……。

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